人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

人体は「たった1つの事故で交通機能が破綻する」…その衝撃の理由Photo: Adobe Stock

口から肛門まで

 食べ物の通り道は、口から肛門まで一本道である。そこに一切の迂回路はない。一度入れば途中で外には出られない。当たり前のように思えるが、実は人体にとってこれは大きな弱点でもある。

 想像してみよう。東京から大阪まで、たった一本の高速道路しか使えないとしたら――。途中に出口はなく、バイパスはなく、一般道もない。交通手段は一本の高速道路だけだ。

 東京から大阪に行きたい人にとって、何もトラブルがなければ全く困らない。だが、ひとたび事故が起こればどうなるか。例えば、途中で車両が横転し、使える車線が減少したら。あるいは複数台の車が絡む玉突き事故が起き、道路が完全に封鎖されてしまったら――。

 その手前では、とんでもない大渋滞が起きてしまうだろう。迂回路もなければ出口もない。ただひたすら、道路が再開通するのを待つ以外にできることはない。

 もちろん現実には、東京から大阪までに起こったたった一つの事故で、交通機能が破綻するようなことはありえない。途中で一般道へ降りるなり、迂回路を使って事故現場を回避するなり、新幹線や飛行機のように他の経路を使うなり、解決策はいくらでもある。

 だが残念なことに、人体は「たった一つの事故で交通機能が破綻する」ようなつくりになっている。繰り返すが、口から肛門まで、たった一本しか道がないからだ。