日本テレビと小学館の「ダブルスタンダード」に憤り
一方で「社会的ムーブメント」に感じる不安
既に多くのニュースで報じられているのでご存じだろうが、芦原さんはSNSで、脚本をめぐってドラマ制作陣と折り合いがつかず、当初の「漫画に忠実に描く」という約束が反故されたなどと説明をした後、亡くなってしまった。
しかし、日本テレビは芦原さんの訃報を受けて「最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」とコメントを発表した。故人が世に訴えた最期のメッセージを「全否定」するという異常な対応に出た。これに多くの漫画家やドラマ関係者が反発、第三者調査をするなりして、実際にどのようなやりとりがあったのか真相を明らかにすべきだという声が多く上がったが、現在にいたるまで日本テレビは沈黙を守っている。また、小学館も「経緯などを社外発信する予定はない」と報道されている。
これに対して憤りを感じる人が増えている。両社とも「報道」を名乗って、時に問題が起きた政治家や企業などに「説明責任を果たせ」と詰め寄っているからだ。他人の粗は厳しく叩き、自分の都合の悪い話はお口にチャックという「ダブルスタンダード」は、今の時代にもっとも軽蔑されるというのは説明の必要もあるまい。
さて、このように「性加害告発」と「メディア不信」という二つのムーブメントが盛り上がっていくのを眺めていると、筆者は一抹の不安に襲われる。
もちろん、性被害を苦しむ人が声を上げられる社会になるのは、悪いことではない。権力の監視や中立な報道を行うメディアが信頼回復のため、襟を正してもらうことも重要だ。
ただ、社会的ムーブメントというものはあまりに強くなってしまうとその反動で、正反対のムーブメントの呼び水になってしまうことがある。では、「性加害告発」と「メディア不信」が過度に盛り上がった日本社会にはどんな「反動」が起きるか。個人的には、そう遠くない未来、アメリカのドナルド・トランプ前大統領のような「排外主義」を強く打ち出す過激な政治家があらわれる恐れがある、と考えている。