二つのムーブメントの行く末
「トランプ誕生」直前の空気に酷似
「飛躍し過ぎだろ、こいつの頭は大丈夫か」と冷笑する人も多いかもしれないが、実はこの二つの社会的ムーブメントは、トランプ氏が急速に支持を得ていく時に吹いた「追い風」と酷似しているのだ。
筆者はトランプ氏がまだ「泡沫候補」とバカにされていた2016年1月9日、『単なる「言いたい放題」ではない!トランプ氏の老獪なメディア戦術』という記事を寄稿したことがある。
当時、日本のマスコミでは、トランプ氏は「差別主義者の暴言おじさん」扱いで、ワイドショーのスタジオでは専門家たちはが「こんなのが大統領になったらアメリカはおしまいです」と鼻で笑っていた。
そんなムードの中で筆者は、トランプ氏を「取引の天才」と評価して、「暴言」の裏には、既存の政治家ではとても太刀打ちできない高度なメディア戦略があると指摘した。
もちろんこの記事は炎上した。「逆張り野郎!」「このレイシストが!」「中学校からやり直せ」とボロカスに叩かれ、ロス在住の友人からも、「トランプ支持者だと思われたら、メディアの世界でも干されちゃうからやめた方がいい」と本気で心配された。
それくらい反響があったので、TBSの情報番組から取材も申し込まれた。聞けば、著名な政治評論家やらジャーナリストに「トランプが大統領になる可能性」を尋ねても、「そんな恥ずかしいことが言えるか」と誰も相手にしてくれないので、仕方なくネットで検索した無名のライターにお鉢が回ってきたというワケだ。
ただ、そんな風に狂人扱いされる中でも、筆者にはトランプ氏が次の大統領になる確信があった。当時のアメリカ社会では非インテリ、非ホワイトカラーの中で、オバマ大統領の「建前的な正義」に辟易とする人々が増えていたからだ。戦略的にオバマ大統領と真逆の主張をするトランプ氏に支持が集まるのは目に見えていた。
そこに加えて、トランプ氏が「メディアの偏向」を攻撃しているのもクレバーだと思った。当時、アメリカのメディア不信は深刻で、調査会社ギャラップの2016年調査では、メディアを信頼できると答えた米国人はたったの32%しかいなかった。
トランプ氏は当時、米テレビ局CNNはライバルのヒラリー・クリントン氏に有利な情報ばかりを流すとして、「CNN=クリントン・ニュース・ネットワーク」と揶揄した。「偏向メディア」を攻撃して、対立構図をつくり上げることで、「既得権益と戦う政治家」というブランディングに成功していた。
ここまで言えば、なぜ今の日本にトランプ氏のような過激な人物が現れるのかという理由を、なんとなくご理解いただけるのではないか。