「不適切にもほどがある!」人気のワケ
ファシズム台頭の一歩手前か
今、宮藤官九郎氏脚本のドラマ「不適切にもほどがある!」が人気だ。昭和のダメおやじが令和にタイムスリップし、「不適切」発言が令和の停滞した空気をかき回すという内容で、昭和生まれの筆者も毎回楽しく観させていただいている。
なぜこんなに楽しいのかというと、昭和の差別とハラスメントの時代に生まれ育った者として、今のなんでもかんでもコンプライアンスとか、何か口走るたびに「それって○○ハラですよ」と注意される社会が、なんとなく息苦しく感じているからかもしれない。
そんな社会の閉塞感をさらに強くしているのが、「性加害告発」と「メディア不信」ではないか。
週刊誌が性加害疑惑を報じて、松本氏や伊東選手は活躍の場を失い、社会的評価も失う。一方で、「ファン」たちは、週刊誌を「書き得」「廃刊しろ!」と叩き、告発した女性たちを「金目当て」だと執拗に攻撃する。
結局、誰も得をしない。互いに互いをつぶし合って、どれが本当でうそかもわからない。ただ、ひとつ断言できるのは、日本社会の中に「不信感」と「考えの違う他者への憎悪」が急速に高まっているということだ。
こういう混沌とした時に、「わかりやすい敵」を掲げる過激な政治家が現れると、群衆がワッとすがってしまうのは、ナチス時代のドイツを見ても明らかだ。
『マネジメント』で知られるピーター・ドラッカーによれば、「ファシズム」が台頭する社会とは、プロパガンダがまん延して、「何も信じられなくなり、すべてのコミュニケーションが疑わしい」という状態だという。
「性加害告発」と「メディア不信」があふれる日本はまさしく、その一歩手前のような気がしている。
既存の体制を否定する人々に、強烈な支持を受ける「日本版トランプ」が誕生する日も近いのではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)