日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか写真はイメージです Photo: PIXTA

近年、大企業による不正行為のニュースが後を絶たない。その要因の一つに、「脅しの経営」に萎縮する社員たちの心理がある。経営陣の無茶振りに応えるには不正を働くしかないが、応えなければ過酷な処遇が待っている。減点主義から、日本企業はすみやかに脱却しなければならない。本稿は、渋谷和宏『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

ダイハツ、日野自動車…
大企業の不正が次々と明るみに

「脅しの経営」に萎縮し「減点主義的な処遇」を恐れる社員たちの姿勢は時に不祥事を招き、企業の存続さえ危うくしかねません。企業の不正行為を報じるニュースも後を絶ちません。ここ数年だけでも日本を代表する大企業の不正が次々に明らかになりました。

 2022年にはトヨタ自動車の完全子会社のダイハツ工業で、安全性を確認する認証手続きでの不正が発覚しました。側面衝突した際の安全性を確認する試験で、安全基準に到達している認証を確実に得るため、一部の乗用車のドア部品に本来の仕様にはない加工を施していたのです。不正の対象となった乗用車は8万8000台に上りました。

 日野自動車の不正も同年に発覚しました。改ざんしたエンジンの燃費性能や排ガス量のデータを国に提出していたのです。外部の弁護士らで構成する特別調査委員会の調査で、検査データの不正な改ざんは遅くても2003年からおよそ20年にわたり行われてきた事実も明らかになりました。

 日野自動車は、不正の対象となった大型、中型トラックなどで生産や販売に必要な型式認証を国土交通省から取り消され、一時期、国内向けの全車種が出荷できない事態に陥りました。

 同社は直後の2022年3月期の連結決算で最終損益が847億円の赤字に陥り、さらに直近の2023年3月期連結決算では最終損益の赤字額が過去最大の1176億円にまで膨らみました。販売台数が激減した悪影響は今もなお取引先の部品メーカーや販売会社などに及んでいます。

 2021年には三菱電機の不正が明らかになりました。鉄道車両向け空調装置についての架空の検査データを、顧客である鉄道会社に報告していたのです。さらにこの問題の調査を進める過程で、鉄道車両向け空気圧縮機の検査でも不正が行われていたこともわかりました。三菱電機は一連の不正行為が組織的だったと認め、社長が引責辞任を表明する事態になりました。

 不正は検査データの改ざんだけではありません。

 2015年には東芝の不正会計事件が大きなニュースになりました。

「不正会計の疑いがある」という東芝関係者による証券取引等監視委員会への内部通報をきっかけに、同委員会、さらに外部の弁護士や公認会計士らで構成する第三者委員会が調査した結果、東芝は2008年度から2014年度第3四半期までの長期にわたり、合計1500億円超もの利益を水増ししていた事実が白日の下にさらされました。