学ぶビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

近年、大人の学び直しやリスキリングがトレンドになっているが、“学びの本質”を知るビジネスパーソンはどれだけいるだろうか。現役電通マンでありながら、現在も東京大学大学院の博士課程に在学中の国分峰樹氏は、日本のビジネスパーソンは「専門性を磨くための学びがおろそかになっている」と指摘する。本稿は、国分峰樹『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』(フォレスト出版)の一部を抜粋・編集したものです。

従業員意識が強い
日本のビジネスパーソン

 日本はまだ、ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用に慣れてしまっている状態のビジネスパーソンが多いため、「プロフェッショナル」というより「従業員」であるという意識が強く残っており、プロとしての専門性を磨くための学びがおろそかになってしまっています。プロのスポーツ選手は、試合以外の時間を使って自分の責任でしっかりと練習をするのが当たり前ですが、プロのビジネスパーソンは、仕事以外の時間を使って自分の責任でしっかりと学ぶ習慣のない人が多いです。

 いまだに仕事のなかでしか仕事に必要な力をつけることができないと思っている人もおり、オン・ザ・ジョブトレーニング(OJT)とたまに参加する研修だけが学びの機会で、それさえやっていればライバルや競合他社を凌駕する力がつくと考えているのかもしれません。仕事以外の時間に自分で練習をして、プロとしての能力を磨こうとしてくれない社員が多いのを見かねて、eラーニングのシステムを充実させたり、リスキリングの機会を提供する企業が増えているのです。

 この点について、パーソル総合研究所の小林祐児さんは、『リスキリングは経営課題:日本企業の「学びとキャリア」考』(2023)のなかで、日本のビジネスパーソンは世界的にみても圧倒的に学びの習慣がないことに着目し、〈この国の多くの人にとって、「学び」とは新人と学生が行う「お勉強」であって、社会人が行うようなものとして全く定着していません。相対的な意味では、日本はすでに「大人の学びの貧困社会」へと堕ちている〉と危惧します。遅ればせながら急に盛り上がりを見せるリスキリングについても、ベルトコンベアで社員にスキルを装填して出荷するという「リスキリングの工場モデル」的な発想になってしまっており、古い詰め込み教育のようなプログラムが実施されていることを問題視しています。

 1960年代末から1970年代にかけてヨーロッパで生まれた「リカレント教育」(1*)のコンセプトが、大学での社会人教育や生涯学習など「企業以外の教育機関における学び直し」を想定しているのに対して、リスキリングは、会社におけるジョブチェンジを意識した「新しいスキルの獲得」を意味していると整理します。

(1*)…1970年前後のヨーロッパは不況に入ったことで、それまでの主流産業がそのまま伸びられなくなり、新たなマーケット開拓のため、産業構造そのものが変容しはじめ、重厚長大の古い産業に従事していた労働者が大量に失業した。産業の構造転換のなかで、古い産業で余った労働力を新たな産業で有効な人材に転換させていくために、大学をキャリアチェンジの機関として活用しようとするリカレント教育の考え方が生まれる(吉見、2020)。