東芝は2008年のリーマンショックの影響で主力の半導体事業が不振に陥り、2009年3月期の決算で当時としては過去最大の4000億円近い赤字を計上しました。さらに2011年の東日本大震災後の福島第一原発の過酷事故の影響で、当時の中核事業の一つだった原子力発電所事業の新規受注が激減し、こちらも暗礁に乗り上げました。

 利益の水増しはこのような業績の大幅悪化を隠ぺいするのが目的でした。いわゆる粉飾決算です。

 同年、田中久雄社長(当時)は責任を取って辞任、さらに前社長の佐々木則夫副会長(当時)、前々社長の西田厚聰相談役(当時)ら8人が取締役を引責辞任しました。

 不正会計問題を引き金に、東芝は経営危機に陥りました。2016年には家電、パソコンなどの不採算事業から撤退を余儀なくされ、1万4000人規模の人員削減、配置転換を発表しました。さらに資金繰りが行き詰まるのを避けるため、業績が好調だった医療機器子会社の東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却して、資金を捻出しました。

「東芝140年の歴史の中で最大とも言えるブランドイメージの毀損となり、一朝一夕では回復できない」

 当時の田中社長は引責辞任を発表した会見でこう発言しました。その言葉通り、東芝のブランドイメージは今も回復していません。

「減点主義的な処遇」を恐れる
社員たちの姿勢が不正の土壌に

 ここで取り上げた大企業が不正に手を染めた状況や経緯はもちろんそれぞれ異なります。しかし「脅しの経営」に萎縮し「減点主義的な処遇」を恐れる社員たちの姿勢が不正の土壌となっていた点では共通している、と私は見ています。

 東芝の不正会計事件では、業績の大幅悪化に直面した当時の田中社長、佐々木前社長、西田前々社長が、何とか業績を上向かせようとして「チャレンジ」と称する高い利益目標の達成を現場の社員たちに要求していました。

 第三者委員会がまとめた調査報告書は「この『チャレンジ』と称する過大な損益面での改善要求が不正会計問題につながった」と指摘しています。

 おそらく経営陣が要求した利益目標は現場の社員からすれば実現困難な水準に設定されていたのでしょう。しかし「脅しの経営」に萎縮した社員たちは経営陣に対して「達成できない」とは言えません。たとえ困難な目標でも、達成に向けて懸命に努力する姿勢を示さなければ「減点主義的な処遇」の対象になってしまうかもしれないと恐れているからです。