心不全の治療の原則は、心臓の働きを低下させた原因を明らかにし、その原因となった病気を治療することです。急性心不全の治療法を、原因ごとに見ていきましょう。

 たとえば、「虚血性心疾患」が原因で心不全が起こっているのであれば、心臓に十分な血液を送れるようにする治療を行う必要があります。

「心臓に十分な血液を送るためには、動脈硬化などによって詰まっている血管を広げる必要があります。これには、カテーテルと呼ばれる直径1.5~2mm程度の細い管を血管に通して送り込み、血管内で狭窄(きょうさく)している箇所をバルーン(風船)で拡張して広げたり、場合によっては血管内にステント(金属のメッシュ)を留置したりするカテーテル治療が行われます」

 昔から行われている、心臓に血液を送り込めるようにする方法としては、狭窄箇所をうかいする血行路を作るバイパス手術があります。

「バイパス手術では、足などの血管を使い、詰まっている冠動脈をうかいして血行路を作ります。狭窄箇所があまりにも細い場合などに用いられる手術なのですが、心臓を止めた上で人工心肺を使い、開胸して行う手術なので患者さんの負担が大きくなります」

弁の機能を回復する手術法
負担が少ない新しい治療法も

 心臓には体に血液を送り出す大動脈弁、肺に送り出す肺動脈弁、心房と心室の境目にある三尖(さんせん)弁と僧帽(そうぼう)弁の4つの弁があります。これらの弁が開きにくくなったり閉じにくくなったりする疾患が「弁膜症」です。弁膜症に対しては、弁の機能を回復する治療が行われます。

「最も弁膜症が起こりやすいのは大動脈弁です。運動をしたときなどには普段の6~7倍の血液が必要になるのですが、大動脈弁には心臓からその血液を送り出す負荷がかかるために傷みやすくなります」

 カルシウムなどが弁に付着すると、弁が開きにくくなります。その治療としては、弁を取り替えることが基本になります。開胸して傷んだ弁を切除して人工弁に置き換えたり、傷んだ弁の内側にカテーテルによって人工弁を付けたりする方法が取られます。

「人工弁には大きく分けて2種類があります。一つは豚や牛などの心臓の膜で作った生体弁で、もう一つは人工素材の機械弁です。機械弁は硬くてカテーテルでは送り込めないのですが、生体弁は折り畳んでカテーテルで運んで取り付けることができるので、心臓を止めずに治療を行うことができます。体への負担が少なく、高齢者にも用いられる方法で、年齢としては80歳以上が目安になります」

 しかし、このカテーテルで取り付けた生体弁の耐用年数は10年ぐらいだといわれています。といっても、実はこの治療法が行われるようになったのは今から10年ほど前からなので、はっきりしたことは分かっていないとのこと。

「これまでの症例を見ると、10年より少し長く持つようです。人工弁が劣化した場合は、さらにその内側にカテーテルを用いて人工弁を取り付ける処置が行われます」

 心房と心室の間にある三尖弁と僧帽弁は、腱索(けんさく)というピアノ線のような腱で心臓の内壁とつながっており、心臓が拍動するのに伴って弁が開閉します。

「弁そのものが傷んでしまったり、この腱索が切れてしまうことで血液の逆流が生じることがあります。この場合には、開胸して弁の傷んだ部分だけを切り取って縫い合わせたり、人工腱索を取り付ける手術が行われます。逆流の原因にもよりますが、数年前からは開きっぱなしになっている弁を開胸せずに、カテーテルを用いてクリップ留めする治療も行われるようになりました。完全には血液の逆流を防ぐことはできないのですが、手術の負担が軽くて効果が見込める新しい治療法です」