東京2020が大きな転換点、「喫煙規制」の経緯

「WHOなんて知るか!日本には日本のやり方がある。そもそも飲み放題ってのは日本の居酒屋文化だろ」という怒りの声が聞こえてきそうだ。

 日本人として、その気持ちは痛いほどわかるが、いくら文句を言ったところで、我々がWHOの「世界戦略」の前に無力だということは、「喫煙規制」が証明している。

 筆者は2016年12月、本連載で《受動喫煙対策、中露も屈した「五輪前国際圧力」に日本も無力》という記事を発表して、東京2020を開催する限り、日本も「屋内禁煙」を受け入れざるを得なくなるだろうと「予見」した。

「屋内禁煙」は、WHOが各国政府に呼びかけている「世界戦略」の重要な柱だ。それを定着させるために活用をしているのが五輪だ。IOCと手を組んで「ノースモーク五輪」というスローガンを掲げ、開催国に次々と喫煙規制を導入させることに成功してきた。その「外圧」はすさまじいものがあり、中国の北京やロシアのソチも、五輪後に喫煙規制を受け入れている。

 こういう「世界戦略」にあらがう力は残念ながら日本にはない。つまり、2013年に五輪誘致が決定した時点で、喫煙者のみなさんが飲食店や公共施設から閉め出される未来は決まっていたのだ。

 ……という記事を発表したら、えらく怒られた。「欧米か!なんで日本人が海外のルールに合わせなきゃいけないんだよ」「五輪会場に世界一の技術を誇る分煙施設を作ればいいだけだろ」という反対意見が多く寄せられ、まったく知らない人からも酒場で絡まれ、「飲食店で禁煙なんかしたら日本中の居酒屋はつぶれるぞ。頭も悪い記事を書くな」と説教もされて散々だった。

 しかし、結果はどうか。

 2018年7月、日本政府は健康増進法の一部を改正する法律を成立させて、飲食店や公共施設では「屋内禁煙」が原則ルールとされた。「日本には日本のやり方がある!」とか叫んでいた人たちはみんなどこかへ消えて、あっさりWHOの「世界戦略」の軍門に下ってしまっている。

 こういう歴史の教訓に学べば、「飲酒規制」も同じ道をたどるのは明らかだ。つまり、当初は「ここは日本だ、欧米人のルールを押し付けてくんな!」などと威勢のいいことを叫んでいるが、じわじわと劣勢に立たされていくだろう。気がつけば、「居酒屋の飲み放題禁止」がニューノーマルとして広がっていくのだ。

「いやいや、喫煙規制は東京2020開催という“人質”のようなものを取られていたから外圧に屈したけれど、飲酒に関しては外圧に屈する要素なんて何もないだろ」という反論がありそうだが、実は五輪よりもタチの悪いものを日本全体で受け入れてしまっている。

「SDGs」(持続可能な開発目標)だ。