「株式は過半数渡せばいい」は大きな間違い

 第三に、「バトンタッチ」に際しての実務面での手続きを見ていこう。

 金融機関との付き合いを引き継ぐのは、先代の大事な役目だ。中小企業では銀行がコンサルタントも兼ねている場合が多いので、代替わりしても良好な関係を築けるようにしたい。メインバンクとのコミュニケーションを重視しがちだが、準メインバンク以下の金融機関は、比較的気楽な関係だから、忖度のない意見を言ってくれることが多い。

 しばしば問題になるのが、株式の譲渡。少なくとも後継者に過半数は渡して、「社長の座だけでなく経営に関する決定権も譲った」と明らかにすることが重要だ。

「後継者に過半数を渡したくないという経営者も多いです。でも後継者の身になると、『社長の座を譲っても結局口出しするんだな』という不信感につながり、最悪の場合『やっぱり継ぐの、やめた』となりかねない」(藤間氏)

 しかし、過半数を渡したからといって、後継者が全ての決定権を有したことにはならない。

 安定した経営を目指すなら、社長に全体の3分の2(67%)以上の株を集中する必要がある。株主総会の「特別決議」では、3分の2以上の賛成が必要となるからだ。特別決議で決められる事項には、監査役の解任や組織変更、事業譲渡、定款変更など、経営の根幹に関する重要なものがずらりと並ぶ。

 また相続に関しては、問題になりやすいのが不動産だ。中小企業では、経営者が保有する土地や建物を会社に貸しつけ、事務所や工場の敷地にしているケースが珍しくない。親族内承継では後継者がそのまま相続する場合が多いが、注意したいのは後継者以外の相続人。先代が遺言書で差配を決めている場合はいいが、そうでない場合は、関係者が法律上保障された「遺留分」をしっかり受け取れるよう、現金など他の資産を準備しておく必要がある。

 親族外承継の場合は、業務用資産を一本化するためにも、承継する前に会社が買い取っておくのがベター。その際は税金がかかる可能性もあるので注意したい。