新日本酒紀行「稲田姫」稲田本店外観 Photo by Yohko Yamamoto

醸し、新し、おもしろし!飲む場も楽しい姫の地酒

 稲田姫とは、ヤマタノオロチ伝説でスサノオノミコトに助けられて妻になった稲と田の女神様。その姫の名の酒を醸すのが鳥取県米子市の稲田本店だ。2009年から、社長の成瀬以久さんがかじを取る。創業は1673年という老舗蔵。稲田家は昭和初期、東郷平八郎元帥が飲んで気に入り命名した「トップ水雷」がヒットしたものの、その後消費は低迷。後継者も不在で、1995年に以久さんの父、梅原正顕さんが経営を引き継いだ。「鳥取県南部町御内谷(みうちだに)の父の家は元酒蔵でしたが、戦時中の統制で酒造りができず、復活は悲願でした」と以久さん。だが一度傾いた酒蔵は立て直しが難しく、正顕さんは2人の弟に相談し、「飲む人を増やすことだ」と共同で99年に東京でそばと和食の店「稲田屋」を開店。順調に客足を伸ばして10店以上に増え、酒の消費も伸びた。

 仕込み水は大山の伏流水をくみに行き、強力(ごうりき)など県独自の酒米を積極的に使う。2021年に南部町で農業法人天宮ファームを設立し、酒米やリキュール用の赤シソを栽培。自社栽培することで農産物への理解を深める。また、二十世紀梨のリキュールや、県内の北条ワインの樽で熟成させた米焼酎など、地元に特化した商品開発に力を入れる。