刑事裁判で有罪になれば
大幅に支持を失う

 さらにトランプ氏にとっての懸念材料は、現在抱えている4つの刑事裁判のうち1件でも有罪になれば、共和党員を含む有権者の支持を大幅に失う可能性があることだ。

 4つの裁判とは、(1)2020年大統領選で敗北した結果を覆そうと、支持者らをあおって連邦議会を襲撃させた事件、(2)政府の機密文書を不適切に持ち出し、自宅に保管した事件、(3)ジョージア州の大統領選結果を覆そうと選挙管理責任者を脅迫した事件、(4)2016年大統領選の終盤に不倫相手への口止め料の支払いを隠すために業務記録を改ざんした事件である。

 これらの中で最も古い(4)の裁判は3月25日、ニューヨーク州地裁で開始される。本来は(1)の裁判が先に(3月4日)行われる予定だったが、トランプ氏が大統領としての免責特権が認められるべきだと主張し、下級審から控訴審を経て、現在連邦最高裁で審議されているため、ニューヨーク州の裁判が先に行われることになったのである。

(4)の事件の概要はこうだ。2016年大統領選が終盤を迎えた頃、顧問弁護士のマイケル・コーエン氏はトランプ氏と関係があったとされるポルノ女優に13万ドル(約1900万円)の口止め料を支払った。コーエン氏によると、トランプ氏が彼に支払うように指示したという。その後、選挙に勝利して大統領に就任したトランプ氏はコーエン氏に13万ドルを弁済した。

 ニューヨーク州マンハッタン地区検察局のアルビン・ブラッグ検事は、「トランプ氏が弁済した時点で詐欺罪が成立する」として起訴した。同検事によると、トランプ氏は口止め料の支払いを隠すために業務記録を改ざんしたとみられ、選挙に関連する罪状にも問われるという。

 これに対しトランプ氏は無罪を主張。支持者らを集めた集会で、「過激な左派勢力、ジョージ・ソロスの支持を受けるブラッグ検事は“私をやっつけてやる”と訴え続けてきた」などと激しく攻撃し、「裁判は常軌を逸した民主党の検察官などによる選挙妨害だ」と非難した。

 するとこの後、マンハッタン地区検事局にはブラッグ検事やその家族、部下の職員らに対する脅迫メールや電話が押し寄せるようになった。その中には「トランプに手を出すな! さもなければおまえを暗殺する!」といったものや、白い粉と一緒に「後悔するぞ!」と書かれたメモの入った封筒もあったという。

 この事態を重くみたブラッグ検事は裁判所に、トランプ氏に対し検事局への攻撃を控えるようかん口令を出すように要請した。また、陪審員が嫌がらせや脅迫を受ける恐れがあるため、彼らを保護して住所を明かさないようにすることも求めたという。

 まるでマフィアのボスが裁判にかけられたときのような恐ろしい状況だが、それだけトランプ氏側も裁判を妨害しようと必死なのであろう。

 裁判ではかつてトランプ氏に絶対的な忠誠を誓った顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が元ボスと決別して、トランプ氏に不利な証言をすることになっており、有罪になる可能性は十分に考えられる。初犯なので有罪になっても禁錮刑(最高4年)は免れるとみられているが、問題は選挙への影響である。

 ABCニュースが2月23日、サウスカロライナ州の予備選で行った出口調査では、「もしトランプ氏が有罪になった場合、大統領の資格はあるか」との問いに61%が「イエス」、36%は「ノー」と答えた。つまり、共和党有権者の間でも約3分の1は「有罪なら、本選で投票しない」としているのだ。

 さらに共和党の穏健派や無党派層が多いヘイリー氏の支持者に限ると、この数字は大幅に増え、「有罪となれば、トランプ氏は大統領にふさわしくない」と回答した人が79%に上っている。