不測の事態が起きなければ
バイデン大統領が僅差で勝利か
ヘイリー氏の撤退表明を受けて、バイデン大統領は彼女の支持者の取り込みを図った。大統領はヘイリー氏の支持者らに「自らの選挙戦に場所を用意する」との声明を出し、「意見の不一致も多いが、米国の民主主義を守り、法による統治のために立ち上がり、米国の敵に立ち向かうという基本的な事柄については共通の土台を見つけることができると信じている」と述べた。
ヘイリー氏の支持者の何割かが本選で投票しないか、あるいはバイデン大統領に投票すれば、トランプ氏にとって大きな打撃となるだろう。政治経験の豊富なバイデン氏はそのことを認識しているからこそ、すぐに行動を起こしたのだ。
バイデン大統領は高齢の不安や力強さを欠いた演説、実績のアピール不足などもあって世論調査で過小評価される傾向があるが、実は選挙に強い。
2020年大統領選では僅差でトランプ氏を破り、2022年の中間選挙では民主党の大敗が予想されていた中、中絶問題などを前面に打ち出して戦い、上院多数派を奪還した。
片やトランプ氏は共和党内では圧倒的な強さを誇るが、保守強硬派を支持基盤としているため、民主党との選挙戦にはあまり強くない。
共和党予備選でトランプ氏らと戦ったクリス・クリスティー前ニュージャージー州知事はこう述べている。
「トランプ氏が共和党にいる限り、今後の共和党は根本的な問題を抱えることになる。彼は2018年に下院の多数派を失い、2020年に上院とホワイトハウスを失い、2022年には知事選と上院選で多くの議席を失いました。2024年に敗れれば4回目の敗北です。彼はフロリダ州の邸宅に戻り、泣き言や文句を言い続けることになるでしょう」
クリスティー氏は「トランプ氏では本選に勝てない」と言い続け、予備選を戦ったが、共和党内の支持を広げられずに撤退を余儀なくされた。
一方、再選を目指すバイデン大統領も史上最高齢などの不安要素を抱えているため、3月7日に連邦議会で行われた一般教書演説では国民を安心させようと努めた。
「私は年を取り過ぎていると言われます。若くても年を取っていても変わらないものは何かを知っています。私たちを導く北極星を知っています。全ての人は平等につくられており、人生を通して平等に扱われるべきです…」
それから大統領は熱のこもった力強い口調で議会襲撃事件を起こしたトランプ氏を厳しく非難し、経済についても自らの実績をアピールした。
「経済は瀬戸際にあるという人がいますが、米国経済は世界の垂涎(すいぜん)の的です。わずか3年で1500万人の雇用が新規に創り出されました。過去最高です」と。
実際、株価は史上最高値を更新し、失業率は3%台半ばで50年ぶりの低水準にあり、米国経済は好調である。にもかかわらず世論調査であまり評価されていないのは、記録的な物価上昇によって家計が圧迫され、それが国民の不満として表れているからではないかと思われる。
しかし、そのインフレもようやく収まりつつある、2024年1月の個人消費支出(PCE)の上昇率は前年同月比で2.4%となり、およそ3年ぶりの低水準でインフレの鈍化傾向が示された形となった。
バイデン大統領の全国顧問の一人であるジェイ・プリツカー・イリノイ州知事は2024年1月14日、ABCテレビの政治討論番組「ジス・ウィーク」に出演し、こう語った。
「バイデン大統領は経済を復興させてきました。今や所得が物価上昇率を上回るようになり、インフレは収まりつつあります。より良い状況を実現しつつあるのです。経済はこれからさらに改善し、大統領の支持率も上がっていくでしょう」
経済が好調であれば現職が有利というのは、過去の大統領選の結果で示されてきたことだ。
これまで述べたトランプ氏の致命的な弱点や好調な米国経済などを基に予測すれば、11月の本選までに国内外で不測の事態が起こらない限り、バイデン大統領が僅差で勝利する可能性は高いと思われる。
(ジャーナリスト 矢部 武)