人は血液循環を支えるスーパー細胞である「血管内皮細胞」の老化とともに老いていく。この老化現象、動脈のような太い血管だけでなく、毛細血管についても侮れない。毛細血管が消失していく「ゴースト血管化」がさまざまな病気につながっていくのだ。特集『血管の老化を防ぐ! 血管強化術』(全8回)は、前半の4回で血管老化と病気の関係について、後半の4回で抗血管老化策について取り上げる。#1では、血管老化の全体像とともに、ゴースト血管化と病気の関係に迫る。(医学ライター 井手ゆきえ)
スーパー細胞から一酸化窒素が出て
血管をしなやかに、血液をサラサラに
血管は、動脈─静脈─毛細血管の三つに大きく分かれ、動脈・静脈の末梢に広がる毛細血管で切れ目なくつながっている。
ヒトを含む脊椎動物は進化の過程で、心臓から送り出された血液が一度も血管外に出ることなく、再び心臓へと還る「閉鎖血管系」を獲得した。昆虫や軟体動物など、動脈と静脈がつながっていない「開放血管系」の生物とは比較にならないほどの高い圧力と速度で、血液を循環させられる点が閉鎖血管系のメリットだ。
心臓が送り出した血液が、37兆とも、60兆ともいわれる全細胞に酸素と栄養素を供給し、二酸化炭素を回収して還ってくるまでの循環時間はわずか1分弱。臓器や筋骨格などの組織が隅々まで、この「高速補給路」で結ばれているからこそ、われわれは俊敏かつ長い時間、動き続けることができる。
主要な血管は外側から「外膜」「中膜」「内膜」の3層構造で、内膜のさらに内側を「血管内皮細胞」が隙間なく覆うことで、血液の「漏れ」を防いでいる。この血管内皮細胞こそ、円滑な血流循環を支えるスーパー細胞だ(下図参照)。
血液内皮細胞の主な機能は、バリア機能のほかに二つある。
よく知られているのは、血管を広げて血圧の低下に働く「血管拡張物質」の一酸化窒素(NO)の合成・分泌だろう。ちなみに、世界初の勃起不全治療薬であるシルデナフィル(商品名:バイアグラ)は、このNOの血管拡張作用の研究から生まれた副産物だ。
NOは血管の酸化や炎症を抑える作用も備え、血管の若々しいしなやかさを保つ「血管保護物質」としても働いてくれる。
さらに重要なのは、血管内でむやみに血栓(血の塊)ができないように凝固成分をブロックし、血管が傷ついた際にできる硬い“かさぶた”を、血管修復後に溶かす機能だ。このおかげで、血液は常にサラサラと流れることができるのだ。
ところが、年齢とともに血管内皮細胞の機能は衰える。