血管内皮細胞の老化とともに
人は老いていく

 まず、次第にNOの合成量が減り、血管のしなやかさが失われ始める。カチコチに硬くなった血管壁は、血球がぶつかる衝撃で血管内皮細胞が剥がれ落ち、炎症と修復が繰り返されるようになる。

 生体内の炎症と修復の繰り返しを「リモデリング」というのだが、これを重ねるうちに、血管がさらに分厚く硬く変性していく。ちょうど赤ちゃんのぷよぷよした足の裏と、分厚く硬くなっている自分の足の裏を思い浮かべてもらうといいだろう。血管内皮細胞の劣化は、血管の脆さや詰まりやすさに直結してしまう。

 ここで重要な動脈が詰まれば致命的な結果になり、血管内皮細胞と壁細胞で構成される直径が0.005ミリメートルほどの毛細血管ならば消失してしまうだろう。酸素と栄養の供給を絶たれた臓器は、ゆっくりと病や死に向かう。

 つまり、「人は『血管内皮細胞の老化』とともに老いていく」のだ。それなら逆に、血管内皮細胞の若さを維持できれば、老いや加齢に伴う病気を防げるのではないだろうか。

 実際、動物実験のレベルでは、すでに血管内皮細胞の老化を抑える研究が進んでおり、血管老化を防ぐことで、動脈硬化や心不全の進行を抑えられることが分かっている。

 さらに一歩踏み込んで、老化した血管内皮細胞を除去する薬剤を投与されたマウスでは、認知症や加齢に伴う筋力の低下が改善される様子も観察されているのだ。

 人に応用するには時間がかかるにせよ、近い将来には血管内皮細胞の老化予防が血管の抗老化どころか、全身のアンチエイジングに寄与する日が来るかもしれない。

 なお、本特集#5では抗血管老化作用のある食材リスト、#6ではNOの合成・分泌を促す食材リストと運動法、#7では血管年齢の測定法をそれぞれ詳らかにする。