毛細血管が消える「ゴースト血管化」
認知症や骨粗しょう症にも関与か
さて、血管老化が引き起こす病気の代表格は、主要な血管の周辺で生じる動脈硬化や脳・心血管疾患など循環器系の病気であるが最近、毛細血管の消失による影響も侮れないことが分かってきた。
前述したように、毛細血管は内側の直径が0.005ミリメートルほどの、ごくごく細い血管だ。ちなみに酸素と栄養素を運ぶ赤血球の直径は0.008ミリメートルあり、そのままでは進めない。
そこで赤血球は、円盤状の形態を二つ折りにして毛細血管内を移動していく。
毛細血管の内皮細胞間には、ほんのわずかな隙間があり、赤血球はそこから栄養や酸素をちびちび配給していくのだ(下図参照)。
ところが血管の老化が進むと、血管内皮細胞の外側で、血管を守るブロック塀のように整然と並んでいた壁細胞が変形、あるいは剥がれ、血管の形を維持できなくなってしまう。
くねくねと変形した状態の毛細血管では、さすがの赤血球もつっかえてしまい、次第に酸素と栄養素の供給が途絶えていく(上図の右参照)。
辛うじて通じていた毛細血管もかすみと消え去る。
こうした現象は、大阪大学微生物病研究所情報伝達分野・高倉伸幸教授によって「ゴースト血管化」と命名され、覚えやすいネーミングのかいあってか、一般の関心も高まっている。
ゴースト血管化が生じると、末梢組織の血流が滞り、さまざまな不具合が生じる。
例えば目の血流不全では、網膜症や加齢黄斑変性などの発症リスクが増加するほか、大きな臓器では毛細血管の塊でもある腎臓の糸球体が壊れ、慢性腎臓病(CKD)や糖尿病性腎症が進行し、腎不全から人工透析が必要になることもある。
最近は、加齢性の疾患である骨粗しょう症やアルツハイマー型認知症にも、ゴースト血管化が関与している可能性が指摘され、研究が進められている。つまり、生活習慣病をはじめとするおなじみの疾病に、毛細血管の老化が関わっている可能性が疑われているのだ。
毛細血管の老化が、すぐさま生命に関わる場面は少ないかもしれない。しかし、思い立ったら即、行きたい所へ出掛け、食べたいものを食べられる「生活の質」は確実に下がるだろう。健康寿命を1年でも2年でも延ばしたいなら、できるだけ早いうちから、血管老化対策に取り組む必要がある。
Key Visual by Kaoru Kurata, Graphic:Daddy’s Home