女性活躍に対する、個人の視点と組織の視点

 そうした社会の動きがありながらも、上場企業における女性の取締役率は、2022年が11.4%、2023年は13.4%と、上昇してはいるが、「2030年までに30%以上」という政府目標には遠く及ばない。池原さんには、“微増”にとどまっている事実がもどかしいにちがいない。

池原 これといった対策を立てず、なりゆきまかせにしていれば、今後もこの程度の伸びしか期待できないと思います。場合によっては、クオータ制のように、「女性枠」を設ける必要もあるのではないでしょうか。しかし一方で、「女性にだけ下駄を履かせるのか?」と思う男性もいます。でも、想像してみてください。みんなで並んで、木になっている実を取ろうとしているときに、その木の枝が歪んでいるのです。同じ地面に立っていても、ある人からは手が届きやすく、ある人からは手が届きにくい。不公平なので、それぞれに応じた高さの台を用意して、全員が枝に手が届くように位置を揃えることが大切なのです。特定の誰かを優遇するわけではありません。

「女性活躍推進は女性のためだけではない。だからこそ、みんなで一緒に取り組んでいきたい」と、池原さんは強調する。時代背景を見ても、女性が活躍しない企業に明るい未来は期待できないだろう。

池原 女性活躍には、“組織の視点”と“個人の視点”の2つがあると思います。

 組織の視点としては、総人口の約半分を占める女性が社内に少なく、しかも、意思決定層にいないのは多様性に欠ける、ということ。もちろん、職種での違いはありますが、女性が活躍できない企業であると判断されれば、採用面からも厳しくなるのが明白です。

 個人の視点として忘れてはならないのは、多様な人の意見が生かされない組織は、自分自身がシニアになるなど、マイノリティの立場になったときに苦しい思いをする、ということです。

 先ほどの「下駄」の話で言うと、私たちが求めている最終形は、木がまっすぐで、下駄など必要のない社会。言い換えれば、それは男性たちが長時間働くことや、管理職になることを強いられない社会でもあります。女性活躍の話は、突き詰めれば、誰にとっても働きやすい環境をつくることなのです。

 クオータ制以外に女性管理職を増やす方法として、池原さんは、「社外取締役のように、社外から女性管理職に入ってもらう方法」と「社内で女性管理職候補を育てる方法」を挙げる。

池原 女性管理職が増えていないのは、内部で管理職候補となる女性の母集団を形成できていないことが大きな原因です。人材は今日明日ですぐに育つわけではありません。経営者は、後継者候補のなかに女性を入れていくことに“長いスパン”で取り組む必要があります。その際、気をつけなければいけないのは、7割の男性経営幹部が「ミニ・ミー症候群」だと言われていること。「ミニ・ミー」とは「小さな自分」を意味し、「ミニ・ミー症候群」とは、“自分と似たような属性を持つ者を後継者に指名したがる傾向”のことです。女性活躍の推進には、「ミニ・ミー症候群」の改善といった、男性側の意識改革も必須です。