女性部下や後輩を持つ人のための1on1とは?

 池原さんは、昨年(2023年)に、書籍『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』を執筆した。上司や先輩がメンターとなり、女性部下と「キャリア1on1」を重ねながら、成長をサポートしていく際のノウハウを記した1冊だ。女性同士のメンタリングだけでなく、男性が女性にメンタリングすることも視野に入れて書かれている。

池原 この本は、経営層や管理職の研修テキストとしても使っていただいています。そうしたなか、「女性がこのように感じているなんて知らなかった。勉強になった」という声を男性からたくさんいただきました。最も反響が大きかったのは、「女性がキャリアについてどのような課題を抱えているのか」をまとめた第7章です。たとえば、成功して脚光を浴びても、「たまたま運がよかっただけで私の実力ではない。賞賛されるなんて、周囲を欺いているようだ」と感じてしまうインポスター症候群は、女性にはなじみのあるものですが、「初めて知った」という男性が多かったようです。すべての女性が同じ傾向にあるわけではありませんが、個々人に向き合うためにも、まずは、全体的な傾向を知ることが大切です。理解によって、「子育て中の女性には、簡単な仕事をまわしてあげるのが優しさだ」といった的外れな配慮が減っていきます。

 池原さんは、本書を、女性だけではなくZ世代の社員など、管理職が、自分と違う価値観の社員に対して行う「ダイバーシティマネジメント」にも活用してほしいと語る。

池原 「マジョリティの無自覚」と言うのでしょうか、マジョリティが発する悪気のない言葉にマイノリティ側が断絶を感じることが多々あります。誰もが、ある場面ではマジョリティであり、別の場面ではマイノリティです。たとえば、視覚障がいのある方にとって、目が見えている私はマジョリティであり、悪気なく配慮を欠くこともあると思います。ジェンダーについても同じです。そのような溝を、対話を通して埋めるために、今回の本がお役に立てばうれしいです。

 また、本書では、「働きやすさ」のための制度や環境の整備だけではなく、効果的な1on1が「働きがい」をつくると説いている。

池原 「働きがい」と「働きやすさ」は両方とも大切です。たとえば、若いときは「働きがい」を優先していても、家庭を持てば、「働きやすさ」のほうが大切になってくるかもしれません。その時々で、双方の比重は変わるでしょう。

 無意識バイアス(偏見)で、上司が良かれと思いながら、“女性には簡単な仕事を割り振り、チャレンジングな仕事は男性にまわす”ことが行われることもあって、女性は「働きがい」を知る機会自体が少ないように感じます。「それは仕方がない」と受けとめる女性も少なくありません。男性同様に、女性が「働きがい」を感じることはとても重要です。