頭の後ろで手を組む男性写真はイメージです Photo:PIXTA

感染症の研究者である筆者は、アフリカでエボラ出血熱の感染対策に従事。そのとき先進各国は多くのスタッフを現地に投入し、来るべき自国での感染症流行に備えた訓練を陰で実施したが、日本だけは例外だった。※本稿は、古瀬祐気『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。

アフリカのエボラ大流行に
日本だけ人を出せなかった理由

 2014~2015年にエボラウイルス病が大流行したとき、僕は流行の最後のほうまでリベリアに残ったので、復興活動にも携わることができた。エボラウイルス病以外のほとんどの診療活動が停止し、ドロップアウトしてしまった医療従事者も多かった中で、医療体制の立て直しを行ったのだ。

 世界銀行や各国の政府、篤志家などから多大な支援を頂戴し、僕のチームが担当した部分だけでも1億円くらいの予算がついた。

 この金額を何に使おうか。PCRの機械を買う?ワクチンを開発する?……違う、そんなんじゃない。雨が降ると道路が水没して病院に行けなくなるから病院周りの道を舗装しよう。24時間電気の途切れない発電機を買おう。各保健所に1台ずつバイクを配備して検体の輸送や情報の伝達を少しでも効率化しよう――。そんなことを考えて実行するのが途上国での国際保健の現場なのだ。

 ところで、このエボラウイルス病の大流行に対して、僕はWHOから派遣されて現地で支援活動を行ったのだが、日本政府は何かしてくれたのだろうか。ニュースで知ったところによると、政府は6000万円ほどの寄附をしてくれたそうだ。ありがたい。

 ……本当にそうだろうか。対策全体の予算が100億円を超える中で、世界トップレベルの経済規模を誇る国からの支出としては驚くほど少額だというのが僕の感想だ。

 そもそも、主に被災した3カ国にひとをだれも派遣しなかったのは、先進国と呼ばれる国の中では日本だけだった。中国は何百人もの医療従事者を派遣して、簡易的な病院を設立して診療を行った。アメリカはリベリアの各州に疫学者を派遣して、サーベイランス活動(感染者数を集計するなど、流行の状況を把握するための活動)をサポートした。オランダは地方部に検査室を設置して、診断のためにPCR検査を行った。

 派遣された場所や時期が違うので一緒に活動したわけではないけれど、僕のようにWHOだったりあるいは「国境なき医師団」に所属したりして現地に入った日本人は全部で20名ほどいたようだ。だが、日本政府から現地に派遣されたひとはいなかった。