感染症の流行は“チャンス”
データを解析したい研究者の性

 恐れていたとおり、「なんで俺たちのデータを外国人のあいつが論文化するんだ」という反発も一部から出てきたのだが、偉いひとのゴーサインがあったのでそのまま話を進めることができた。罪滅ぼしのような言い訳をさせてもらうと、実際に発表した論文では、論文作成に一番貢献したひとである第一著者も研究プロジェクトのリーダーを示す責任著者も、ほとんどの場合僕ではなく現地のかたの名前になっている。

 実は、この強引な作戦は、僕のその後の活動にうまくつながっていった。2014年のエボラウイルス病大流行のあとにも、アフリカではエボラウイルス病のアウトブレイクが起こったし、ほかにも麻疹・黄熱病・エムポックス(サル痘)などいろいろな感染症が流行した。

 そのたびに、「ユキはどこだ。あいつの対策活動は結構役に立つし、しかも俺たちの名前をちゃんと入れて論文を書いてくれる」と名前があがったそうで、実際に何度か呼んでもらった。

 そして現地の担当者たちと数年の間をあけて会うたびに、「ユキはやっぱりシーズナルだな」と言ってみんなで笑う。僕は自己紹介をするときにいつも、「ユキは日本語で『雪』の意味があるんですよ」と説明している。西アフリカに雪は降らないけれど、それが冬という特定の季節だけのものだということはみんな知っている。

書影『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書、中央公論新社)『ウイルス学者さん、うちの国ヤバいので来てください。』(中公新書、中央公論新社)
古瀬祐気 著

 シーズナル(Seasonal)の直訳は「季節性」。そしてシーズナルという言葉は、「旬のおすすめ、特定の時季においしくなるもの」みたいな意味合いでレストランで使われたりもする。

 感染症が流行しているという特定のときだけみんなが会いたいと思ってくれて、そして僕があらわれる。だから、「ユキはシーズナル」なのだ。僕はアフリカを愛しているけれど、それだけではなく「データを解析したい」という下心ももっている。

 そんなこともみんなちゃんとわかったうえで、迎え入れてくれる。僕は、現地のかたがたとそんな不思議な関係性を築いていった。