唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部をお届けします。
顕微鏡でも見えない生物
顕微鏡の発明によって目に見えない微生物の存在が明らかになり、19世紀にコッホが病原菌を発見して以来、瘴気説はほとんど滅び去った。
感染症とは、体外からやってきた微生物が体内で増殖し、それが引き起こした病気であることが常識になったのだ。
だが、さらに後に「顕微鏡を使っても見えない微生物」の存在が明らかになった。ウイルスである。
しばしば混同されがちだが、細菌とウイルスは全く異なる微生物である。まず大きさが全く違う。ウイルスは細菌の約100分の1と極めて小さいため、通常の光学顕微鏡で観察できない。
ウイルスの発見
ウイルスを初めて観察できたのは、ドイツで電子顕微鏡が発明された1931年のことである。レーウェンフックが「微小動物」を発見してから、実に200年以上も後のことだ。
微小な環境のことはよく「ミクロの世界」と呼ばれるが、ミクロ(マイクロメートル)は1ミリメートルの1000分の1だ。おおよそ細菌のサイズである。
一方、ウイルスのサイズは「ナノ」で表現する。1ナノメートルは1マイクロメートルのさらに1000分の1だ。
また、細菌とウイルスの違いは大きさだけではない。「自力で生きることができるかどうか」にも違いがある。細菌は、環境さえ整っていれば細胞分裂によって自力で増殖する。
ウイルスは生物なのか?
生きるために他の生物に寄生する必要はない。
一方、ウイルスは自力で生きることができない。DNAやRNAと、それを包み込むタンパク質のみでできたシンプルな構造で、自らを複製する力を持たないのだ。
こうした性質から、ウイルスは生物ではないとされることも多いが、微生物学の学問領域には含むのが一般的だ。
(※本原稿は『すばらしい人体』を抜粋・再編集したものです)