支援の形をとりつつも各国は
将来の有事のための訓練が目的

 実は、エボラウイルス病流行対策のために日本政府がアフリカに派遣したというひとはいたらしいのだが、なぜか派遣先は被災国ではなく隣の隣の国であるガーナだった。そこからどんな支援をしたのか、現場にいた僕には何も見えなかった。

 ちなみに、被災国の中に入った僕らのような人間がいることを後日に知った彼は、「へぇ、知らなかった。私以外にも現場に日本人がいたんですね」と発言したらしい。ひとづてに聞いたエピソードなのでもし発言内容が事実と異なるのなら誠に申し訳ないが、言わせてもらえるなら、

「お前は現場に来てないだろ」。

 憎まれ口を叩いたけれど、日本政府として現地にひとを派遣できなかったのには仕方がない事情もあったようだ。万が一、政府から派遣された日本人がエボラウイルス病にかかってしまったらどうなるのだろうか。現地のかたがたを信頼していないようで恐縮なのだが、アフリカ外から来たひとがそのような事態になったときには、多くの場合、先進国に移動させて治療を行うことになる。これをメディカル・エバキュエーション(医療的避難)という。

 僕のようなWHOの外国人スタッフだと、ベルギーに搬送されることになっていた。政府から派遣された場合は、自国に運ぶことになるだろう。そういう緊急事態のためにも、多くの国は支援者としてそれぞれの国の軍組織とつながりのあるひとを派遣していた。いざというときの判断力と機動性に優れているからだ。

 そして、それぞれの国の政府や軍組織は西アフリカのための支援という形を取りつつ、将来的に危険なウイルスのアウトブレイクが自国で起こった際の有事に備えるシミュレーション訓練として、経験を積みたかったという裏の目的もあっただろう。僕自身は日本の平和憲法を支持しているけれど、軍隊がないことのこんな影響はそれまで考えたことがなかった。