実は都会でもたくさん生息している
さまざまな環境に適応するカブトムシ

 里山がカブトムシの生息地としていかに優れているか理解してもらえたと思います。では、里山がないとカブトムシは生活できないのでしょうか?

 じつは、関東地方ではカブトムシは都会の緑地にもたくさん生息しています。明治神宮や新宿御苑のような大規模緑地はもちろんのこと、もっと小さな公園、社寺や学校の敷地などでも、たくさんのカブトムシが見つかることがあります。

 都心部の緑地は残念ながら昆虫採集が禁止されていることも多いのですが、カブトムシに出会いたいという方は、こんな街の中にはいないだろう、という先入観を捨てて、じっくり探してみてください。

 かつての私の調査地の一つは、東京の目黒区内の小さな緑地です。渋谷から歩いてすぐの場所でしたが、多い時には一晩で数十匹のカブトムシを観察することができました。

 もちろんこれらの場所は里山とは大きくかけ離れた環境です。しかし、都市緑地の林はよく管理されており、間伐や落ち葉掻きが定期的に行われます。その際に集められた落ち葉や材木を捨てるような場所でしばしば幼虫が発生します。

書影『カブトムシの謎をとく』『カブトムシの謎をとく』(筑摩書房)
小島 渉 著

 さらに、間伐材の処理にはコストがかかるため、砕いてチップにして、発酵させ、肥料を作っている施設もあります。そのような場所は幼虫にとって格好の餌場になります。

 成虫が都会の緑地で何を食べているのかはよく分かりませんが、関東地方の緑地には、昔の名残なのか、クヌギが細々と残っていることが多く、それらを利用している可能性があります。あるいは、シラカシなどの、クヌギ以外の樹種を利用していることもあります。

 日本の里山は近年荒廃し、環境は悪化の一途をたどっていますが、カブトムシは人が新たに作り出した環境を柔軟に利用しながら繁栄を続けています。