あるいは、根元の方から幹を切り落としたとしても、切り株からたくさんのひこばえが生え、息を吹き返します(萌芽更新)。このような生命力の高さこそが、クヌギが人に重宝されてきた理由の一つでもあります。

昆虫の餌場に必要なボクトウガの幼虫
実は人間も重要な役割を果たしていた

 しかし、シーズンを通して長期間、あるいは毎年のように同じ箇所から樹液が噴き出し、“ご神木”として地元の昆虫少年・少女たちに愛されるような木も存在します。なぜそのような木では傷口が修復されてしまわないのでしょうか?

 夏の夜に樹液場を訪れると、5㎝ほどの大きなイモムシが樹皮の隙間に潜んでいることがあります。このイモムシこそが、樹液場の形成に重要な役割を果たしていることが分かってきました。

 このイモムシは、ボクトウガというガの幼虫です。生きたクヌギの樹皮の下に潜り込み、坑道を作りながら木の中を食べ進みます。ボクトウガはクヌギの内部を継続的に食害するため、食害痕から樹液が流れ続けます。

 ちなみに、ボクトウガは、肉食性の一面を持っており、樹液を食べにやってきたハエなどの小さな昆虫を捕食することもあるようです。香川県の調査では、樹液場を持つ木のうち93%でボクトウガが確認されたとのことで、ボクトウガがいかに重要かが分かると思います。

 樹液場の形成に関わる他の昆虫として、キクイムシなどの甲虫やオオスズメバチなどが挙げられますが、それらの昆虫は樹皮に浅い傷をつけるだけのため、比較的短期間で傷口が修復されてしまい、何年も連続して樹液が出続けることはありません。

 また、人が定期的に手入れをしている林の方が、放置された林よりも、樹液場をもつクヌギの割合が多いと言われており、人が枝打ちなどで与えたダメージを通して、ボクトウガが木部に侵入する可能性もあります(ただし、枝打ちされた箇所から樹液が染み出すわけではありません)。つまり、樹液場は、人間と昆虫の相互作用により作り出されるのです。