上司が部下に「30分前に出勤しろ」と命じたら、早出残業になる

「じゃあA君のケースはどうでしょうか?」

「会社の始業時間が9時からのところ、B課長はAさんに8時30分に出勤するように指示(指揮命令下の明示)しています。この場合、始業前の30分は労働時間に該当するので、早出残業代の支払いが必要です」

「えーっ!社員の残業代はきちんと計算して出してますが、早出の分までは考えていませんでした」

「これはAさんだけの問題ではなく、管理課の他のメンバーにも関係します。全員がB課長の指示で早出をしていたのなら、個々に早出残業代が発生することになります。そもそも早出出勤を強要するのは、会社の方針ですか?」

「いいえ。社長も私もそんな指示は出していません。部下の労働時間の管理は課長に任せています。今回の件はあくまでもB課長の考えです」

「それではB課長になぜ部下に早出出勤をさせているのか理由を聞いて下さい。もし就業前の心構えみたいな理由のみであれば、労働時間の定義を説明し、考えを改めてもらう必要があります」

「分かりました」

 E社労士はさらに付け加えた。「終業時間後に残業をする場合、残業代を支払う必要があることは認識していると思いますが、早出残業は意識されていないことが多いです。早出残業を繰り返すと、36協定で締結した労働時間をオーバーするかもしれません。労働時間の把握と残業代の支払いについては、労働基準監督署も指導していますので正確に行いたいところです。実際、業務上必要がない早出をさせない企業もあります」

<早出残業を防ぐ一例>
○ 始業時間前及び終業時間後に残業をする場合は、上司の許可制にする。
○ 例えば入室開始可能時間を設けるなど、始業時間前の早い時間から職場に入室させない。
○ 朝礼は始業時間後に行う。
○ 職場内の掃除や、業務開始までの事前準備など早出が必要な場合は当番制とし、当番に当たった社員のみ早出勤務を行う(早出超過勤務の減少には繋がる)。
○ シフト制で勤務する。例えば管理課(勤務時間は9時から18時。労働時間8時間・休憩時間1時間)の場合、勤務時間を8時30分~17時30分と9時から18時までのシフト制にし、9時から9時30分までの電話は早番の社員が応対するなどが考えられる。
○ 始業時間と営業開始時間を同じにしない……など。