元ソフトバンク監督の工藤公康元ソフトバンク監督の工藤公康 Photo:SANKEI

現在、世界29カ国で学ばれている「心身統一合氣道」の藤平信一が、プロ野球界・相撲界のレジェンドと指導者論を語り合った。選手としても監督としても抜群の数字を残した工藤公康が、「頑張ること」をやめて「正しいリラックス」の会得を指南する。本稿は、工藤公康、九重龍二、藤平信一『活の入れ方』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

正しく「力を抜くこと」を
厳しい練習で覚え込ませた

 力みによってバランスが崩れたら、実力を発揮できないばかりか、ケガをするリスクも高まります。おそらく、九重部屋が他を圧倒する1000回の四股を踏むのも、広岡達朗監督が西武ライオンズ時代の工藤公康さんたちを走らせたのも、全身のバランスが取れたリラックスした状態を教えるためだったのではないでしょうか。

 正しく力を抜くことを、体に覚え込ませたわけです。

 工藤さんは、こんなふうに言っています。

「練習でできたことが、本番の試合で同じようにできるとは限りません。プロ野球の選手だって、試合では緊張するし、大事な場面では緊張度はさらに高まります。だから、練習のときから常に緊張感を持った練習をしていないと、実際の試合では体が固まって、思った通りに筋肉が動いてくれないんです。

 ほどほどの緊張感だと、アドレナリンが分泌されて、筋肉が活性化します。すると、自分の能力が出せるし、ときには1~2割増しの力が出たりします。でも、過度の緊張で、アドレナリンが分泌されすぎると、体が硬直し、ぎこちない動きになってしまいます。そんなときに、ケガもしやすいのです。

 そうした力みや緊張をコントロールするには、やはり、緊張感のある練習を積み重ねるしかありません。あるいは、厳しい練習をするしかない。

 たとえば、二軍から一軍に上がってきた選手が平常心を失うことがあります。『ブルって投げられませんでした』なんて言うんですよ。せっかく上がってきたのに残念ですよね。

 そんなときに『私は厳しい練習を積み重ねてきたんだから大丈夫。一軍だろうが二軍だろうが、相手が誰だろうが、マウンドは同じだ』って思えれば、力みは消えていきます。

『ライン際にバントしてみろよ。ゲッツーで刺してやる。他の選手の何倍も、真剣に緊張感のある練習してきたんだからできる』って自信があれば、心に余裕が生まれるんですね。

 でも、この余裕は気を抜くのとはまったくの別物です。