「頑張る」ということが
悪い方向に働いてしまう

 たとえば、ノーアウト1塁2塁でバントされ、ピッチャーの正面にボールが転がってきたとします。ありがちなのは『これなら簡単に刺せる』と思って、捕球して、そのままの姿勢で下からサードに投げてしまう。すると暴投になり、あっという間に点数が入ってしまう。

 練習では気楽に下から投げて、それができていたとしても、試合ではやっぱり緊張感があるんで、筋肉が硬くなるんですよ。だから暴投になりやすい。

 こういうケースでは、しっかり体の正面で捕り、ステップしてから投げるという基本を忘れちゃいけない。くり返し練習することで、体が自然に正しい動きをしてくれるんです。

 私自身は、広岡監督から徹底的に教え込まれましたが、いったん体に染みついたものは、なかなか消えません。どんなに緊張する場面でも、自然に体が動くんです。

 練習でできないことは、試合でもできません。だからこそ、必死に、体に染み込むように練習しなければならないと思うんですよ」

 必死に練習したからリラックスして正しい動きができる――。実体験からくる言葉には重みがあります。

 もう一つ、力みに関しては「頑張る」ということが、悪い方向に働いているのかもしれません。

「頑張る」には、「我を張る」「我意を通す」という意味があります。イメージ的には“歯を食いしばって力を入れている”様子が目に浮かびます。

 みなさんも、この言葉をよく使いませんか?「頑張れ!」と励まし、言われたほうもとりあえず「はい!頑張ります」と応える。

 でも、励ます側も応える側も「何を」「どう頑張るのか」が明確ではないのです。そして、「頑張らなきゃ」と追い詰められていってしまうのです。

 こうならないためには、「頑張る」という意味を明らかにしておく必要があります。

 そもそも、「体に余分な力が入っているとき」には、心を使っているようで、ほとんど使っていません。一生懸命にやっている感覚だけはあるけれど、実際には、何もできていない状態です。つまり“ムダに頑張っている”だけなのです。