NHKあさイチで「合気道的生活」が話題となった「心身統一合氣道」の藤平信一が、プロ野球界・相撲界のレジェンドと指導者論を語り合った。若い世代の“豆腐メンタル”に、多くのリーダーがとまどう昨今にあって、元ソフトバンク監督の工藤公康は「監督はきっかけを与えて、見守るだけ。育っていくのは選手本人」と説く。本稿は、工藤公康、九重龍二、藤平信一『活の入れ方』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

厳しく責める指導で失敗し
「見守る」方針に転換

元ソフトバンク監督の工藤公康元ソフトバンク監督の工藤公康 Photo:SANKEI

 工藤公康さんは、こう話してくれました。

「私も、いっぱい失敗しましたよ。厳しく育てられてますから、やはり最初は、自分も厳しく選手を責めたりしました。でも、うまくいかないことが多かった。だから3年目には、何も言わなくなりました。選手を見守るようになったんです」

“見守る”というのは、聞こえはいいものの、それを実践するのは大変です。

 工藤さんの“見守る”という行為は“気を向ける”という行為でもあります。“気が合う”とか“気が通じる”という言葉がありますが、相手と気を通わすことが、コミュニケーションの基本で、これができると自然にいろいろなことがわかってきます。

 工藤さんの話は、さらに続きます。

「グラウンドで内野手やバッティングを見て、ピッチャーを見て、外野手を見て、残りのバッティングを見て。プレーだけでなく、私を見る目とか、しぐさとかも見ます。すると『好調だな』とか『ちょっと悩んでるな』と、すぐにわかる。いつも見ているから微差にも気づくんです。で、様子を見ながら『今日は黙って見守ろう』とか『励まそう』とかを、使い分けていました」

 工藤さんがやっていたのは、まさに合氣道だと言えます。合氣道では、相手の発する氣をみますが、工藤さんがしていたことは、まさに氣をみて、相手を導くことだったのです。これには、九重さんも賛同されました。

「俺も、そうです。力士も、調子のいいときは“いいときなり”に、悪いときは“悪いときなり”に、発しているものが違うんです。その発するものを見てますね」

 つまり、工藤さんも九重さんも、発しているものを逃さずキャッチしているということです。工藤さんが、さらに教えてくれました。

「いいときは、放っておいていいんです。私がバッティングゲージの横でコーチと話をしていると、好調の選手は、私を見て『監督、おはようございます』なんて言って、スッと向こうに行ってしまいます。こんなときは『ああ、調子がいいんだな』と思って放っておきます。

 でも、私をチラチラ見たり、まったく目を合わせたりしない選手もいます。コーチに『何かあったの?』と聞くと、『昨日のミスをかなり悔やんでいるみたいで』などと教えてくれます。『そうか。しっかり話をしてあげて』とコーチにお願いして、私はその場を去り、後でコーチから報告を受けて、対応するんです」