「期限を守れない部下」どうすればいい?→師匠の言葉が目からウロコだった!写真はイメージです Photo:PIXTA

国内外のリーダーたちが師事する「心身統一合氣道」の継承者・藤平信一が、プロ野球界・相撲界のレジェンドと指導者論を語り合った。ハラスメントを恐れて部下に迎合するリーダーが増えるなか、誠実な指導者ほど葛藤を抱える現代。九重親方(元大関・千代大海)が気づいた、力士を育てるために大切なこととは?本稿は、工藤公康、九重龍二、藤平信一『活の入れ方』(幻冬舎新書)の一部を抜粋・編集したものです。

力で人を動かすことはできない
力で動かせばゆがみが生じる

 人を動かすのは「力」ではありません。

 しかし、上司と部下など、上下(あるいは主従)の力関係があると、人は「力」で相手を動かそうとします(以下の文章の「部下」「上司」「企業」の部分を、スポーツ関係の方は「選手」「指導者」「チーム」に置き換えて読んでみると、ピタリと当てはまるかもしれません)。

 部下は基本的に、上司から命じられたことは、心が向いていなくてもやらなくてはいけません。昨今も、それが原因の企業の不祥事が後を絶ちません。上司から脅されて不正に加担させられたり、人事を盾に嫌なことを無理強いされたりする部下もいることでしょう。

 会社や組織には、大なり小なり力関係があります。このため、その力関係をいいことに、人を力ずくで動かすことが当たり前になっている組織がたくさんあるのです。

 力関係があれば、一時的には、相手を自分の意のままに動かせるかもしれません。でも、相手は表面では従っていても、心の中では抵抗しています。そして、いつか必ず、それは行動になって表れてくるのです。

 ふだんおとなしい人が突然キレたり、心を病んだりする背景には、日頃から、力で押さえつけられていることが少なくありません。

 つまり、力だけでは、本当の意味で人を動かすことはできないのです。

 などと偉そうに言っている私も、以前は、無自覚に人を力で動かしていました。

 かつて、私(藤平信一)は内弟子を育成していました。内弟子は将来、人を導く指導者になるため、人間性を養わなければなりません。このため、技だけではなく、日常生活の細部にわたり、指導をします。たとえば、「期限を守る」というのも、その一つです。

 期限をどうでもいいと考える人間とは一緒に仕事はできません。それでは人から信頼されず、指導者としても不適格となります。

 当時、内弟子の中に、期限を守れない者がいました。注意しても、なかなか改まらない。私は彼に対して、どんどん厳しい言葉をかけるようになり、期限を守らせることに躍起になりました。しかし、彼はまったく変わりませんでした。