「今の時代に、自分が20代だったら、どんな服を着たいと思うだろう?」

 そんな視点で考えれば、若い方に似合う服もすんなり選ぶことができるのです。

 さらに、今のほうが服ときちんと向き合えているような気がします。仕事のスピードが緩やかになった分、一着一着の服に対して様々な思いを馳せられるようになりました。服は言葉をしゃべりませんが、それぞれの服の気持ちに寄り添って、近頃では仲のいい友人のように接しています。

 女優やタレントだけでなく、70代からは一般の方に服の選び方をアドバイスするパーソナルスタイリングの仕事にも携わるようになりました。様々な方と向き合い、その方の個性や生き方にマッチした服を選んでいくと、みなさんの表情がみるみる明るく輝いていく。そのドラマチックな変化を見ていると、私も元気をもらえます。

 どんな形であれ、服を通じて人生を楽しくしていくお手伝いをするのが私の仕事。「生涯現役」で、これからもこの仕事を続けていきたいと思っています。

地味でなく派手すぎない
おしゃれな「黒子」でいたい

 スタイリストの仕事は裏方です。画面には決して映らない黒子の立場ですから、撮影現場であまり目立ち過ぎてはいけません。カラフルな色が好きな私は、あるときイッセイミヤケの真っ赤なダウンコートを現場に着ていったことがありました。ところが、

「西さん、どこにいても目立つよ」

 と言われてしまい、派手過ぎたと大いに反省。

 とはいえ、あまりにも地味な服装だったり、センスのない着こなしをしていたら、「この人に衣装を任せても大丈夫かしら?」と、女優さんやタレントさんたちが不安に感じてしまいます。そこで、「いかにも黒子」な地味な着こなしは避け、派手過ぎないながらも“自分らしさ”をアピールした装いを心がけるようにしています。シンプルなトップスにシンプルなパンツを合わせた場合は個性的な帽子をかぶったり、ベーシックなデザインのワンピースを着たときは襟元にカラフルなバンダナをあしらってみるとか。

 現場では靴の脱ぎ履きが多いので、サッと脱げるサンダルに靴下を合わせることも多いです。そのサンダルにアクセントを効かせたりするのも楽しい。そうすると、「あら、西さん、それ素敵ね」と、女優さんたちから褒めていただけることもしばしばです。私が選んだ服を信頼し、自信を持って着こなしていただくためにも、“おしゃれな黒子”でいたいのです。

 なによりも、「素敵ね」「おしゃれね」と言っていただけたら、素直に嬉しい! その言葉を励みに、「今日はどんな服を着ていこうかな?」と、毎日ワクワクしながら考えています。