ファッションで
TPOを重んじる理由

 先日、クラシックのコンサートに出かけたところ、演奏者の方々が全員Tシャツにカジュアルなパンツといういでたちで、シックなワンピースを着ておしゃれをしていった私はなんだかガッカリして、100%音楽を楽しむことができませんでした。

 私はかなりドレスコードを気にします。毎朝、服を選ぶとき、今日はだれに会ってどこに行くのかを考えながら、自分の着たい服を決めるのです。それは、どんなシーンにも自分が心地よく溶け込みたいという理由もありますが、もうひとつの理由は、その場に同席する相手のことを考えるからです。衣食住のなかで、食と住はだれにも見せる必要がないプライベートな楽しみですが、衣の場合は必ず会う人がいる。自分が着ていく服は、その相手を想い、一緒に楽しい時間を過ごしたいと準備する「サプライズプレゼント」のようなものだと私は思っているのです。

 決して奇抜なファッションで驚かそうというのではありません。自分らしさが光り、なおかつ相手に華やかさをプレゼントできるような装いを大切にしています。そんな服を着た私と出会った瞬間に相手の顔がパーッと明るくなって、思わず笑みがこぼれたら大成功!

書影『Life Closet』(扶桑社)『Life Closet』(扶桑社)
西ゆり子 著

「西さん、今日も素敵ね」なんて言ってもらえたら、自分の生き方を褒めてもらうのと同じくらい嬉しいのです。

 一人で出かけるときも、常にTPOを意識しています。街には大勢の人がいて、行く先々で人生のワンシーンを共にするからです。私にとっては単なる近所のカフェでも、隣のテーブルには、ひょっとしたら記念日を祝っているカップルがいるかもしれない。そう考えると、その方たちに不快感を与えないような装いで出向くことがやはり大切だと思うのです。

 それぞれの場所で、その時々に出会う人への思いやりとリスペクト――それが私にとってのドレスコードなのだと言えるでしょう。