〈全国釣り愛好家協会〉に行ってみたが、ここの役員でさえフライフィッシングなど聞いたことがないという。釣魚規約をめくってもみたが、やはり何の記述もない。

自腹の映画大会で村人を集め
「釣り」本来の魅力を説く

 やむなくブレークモアは、自分が目をつけた長さ4、5キロにわたる河川敷沿いの村々を、一つひとつ訪れて、説得と交渉にあたることにした。

 村人を1カ所に集めるために、大映映画会社から最新のスリラー風チャンバラ映画を取り寄せ、地元の学校の校舎で映画大会を催した。費用は彼が負担した。この特別ショーをおこなうためには、トラックで自家発電装置を運び込まなければならなかった。

 日本人は肩書を気にする国民だから、「先生」という言葉に弱い。そこで彼は、知り合いの日本人外交官に頼んで、フライフィッシングというスポーツについて講演してもらうことにした。この外交官とは、海外でよく一緒に釣りを楽しむ仲だ。

 釣り関係の執筆をしている著名な日本人ライターにも声をかけた。彼もこの企画には大賛成で、やはり快くスピーチを引き受けてくれた。

 映画は大好評だった。血しぶきはたっぷり飛び散ったし、思いきり刺激的な性描写も盛り込まれている。しかし映画のあと、ムードはみるみる盛り下がった。

 まず、外交官がフライフィッシングの喜びを語り、釣り作家がテクニックを説明した。そのあと、ブレークモアが立ち上がり、聴衆に企画をアピールした。

 どのように操業を始めるかを説明し、川に稚魚を補充する費用は自分がすべて負担する、と請け合った。現存するダムと、流れの途中に2カ所あるよどみを、フルに利用することを強調した。入漁料をとることも伝えた。

 フライフィッシングのルールには違反するが、村人たちに免じて、1匹か2匹だけ持ち帰ってもいいことにした。残りはもちろん、川へ返さなければならない。当分のあいだ、村は利益だけを受け取り、商売として成り立つようになった時点で、それまでブレークモアが負担していた出費も、村が引き受けるようにすればいい。