このガイジンは何を企んでいるのか
村人たちの視線は疑いに満ちていた

 聴衆は見るからに怪訝そうだ。村人たちの多くは、フライフィッシングの愛好家が村の外部からどっと押し寄せるのを恐れ、たちまち反対した。若い世代は、泳ぐ場所がなくなる不安を訴えた。

 女たちは、立川や府中の米軍基地が近いことを指摘した。基地のGI(編集部注/米兵の俗称)たちは、喧嘩や性暴力事件など、年がら年中トラブルを起こしている。あの連中が集まってきて、このへんをうろつくようになったら……?詐欺ではないかと疑っている村人も、1人や2人ではない。このガイジンはいったい何をたくらんでいるのだろう……?

 ブレークモアはのちに語った。

「プランを持ち込んだぼくを、火星人かなにかのように見つめてたよ」

 ほかにも問題があった。この川での釣りを、本当の意味で監督する立場の人間や組織が、どこにも存在しないのだ。事業を始める許可を求めようにも、その相手がいない。川の25キロにわたる一画を、誰が所有しているのかと聞いてみても、はっきりした答えが返ってこない。

 そんな質問などされたことがないからだ。地元の役場に行っても、釣り関係の部署すらない。誰もこんなところで釣りなどしないからだ。

 妙なことが判明した。川に魚がいないにもかかわらず、〈釣り同好会〉なるものが存在するらしい。とはいえ、釣りは一度もしたことがないという。年に一、二度、飲み会を開くためのグループなのだそうだ。

 それでもブレークモアは、ものは試しとばかりに、釣り同好会を訪れ、流れの一画を使う許可を出してくれたら収益の1割を渡そう、と提案した。許可する権限などまったくないくせに、同好会は喜んで同意した。こうしてようやく、計画は実行に移されることになった。

 法律上、何の権限もない組織が、受け取る権利のない金と引き替えに、与える権利もない許可を与えたことになる。

 バラバラだったものが、ようやく1つにまとまり始めた。

 川沿いにある5つの村がそれぞれ代表者をたて、フライフィッシングという真新しい事業を統括する組織を結成した。

与えよさらば与えられん
困難を乗り越えた知日派の教訓

 とはいえ、つぎつぎに追加されるさまざまな出費は、あいかわらずブレークモアが負担せざるを得ない。