勧修寺の花菖蒲勧修寺(山科区)の氷室の池を彩る花菖蒲

池のほとりを彩る花菖蒲の三大名所

 「いずれアヤメかカキツバタ」は南北朝時代の軍記物語『太平記』に由来します。いずれもアヤメ科に属する「アヤメ」「カキツバタ(杜若)」「ハナショウブ(花菖蒲)」の3種の違いをご存じでしょうか。以前、京都府立植物園の職員さんに教えていただいた見分け方を伝授いたしましょう。

 まずは見頃と生育場所から。花の見頃が5月から6月と長いのがアヤメで、陸地のよく乾いた場所に生息する点が他の2つと決定的に異なります。いつも水に漬かっている場所が好みのカキツバタは5月上旬から下旬、水辺の湿った場所に生えるハナショウブは5月下旬から6月下旬と、この2つは見頃の時期がずれます。 

 次に、花弁の付け根に注目してください。網目の模様があるのがアヤメ、白い筋があるのはカキツバタで、黄色く色づくのはハナショウブです。これは分かりやすいですね。葉の特徴も記しておくと、葉の幅が狭く中央の葉脈が目立たないのがアヤメ、葉の幅が広く中央の葉脈が目立たないのはカキツバタで、葉の幅が狭く中央の葉脈が目立つのがハナショウブとなります。実は、この3種は背の高さもだいぶ違うのですが、それは実物を見てご確認ください。

軒菖蒲国指定登録有形文化財で市指定景観重要建造物のらくたび京町家(中京区)では毎年、軒菖蒲をこのように
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 ちなみに、5月5日端午の節句は、別名「菖蒲(ショウブ)の節句」。シュッと伸びた葉をお風呂に浮かべたり、伝統を重んじる旧家では家の軒先に「軒菖蒲」を飾ったりして厄よけを願います。もっともこの菖蒲はサトイモ科で、前述のアヤメ科の花菖蒲とは異なります。

 それでは、夏を彩る京都の花菖蒲の名所をご案内しましょう。まずは、地下鉄東西線「小野」駅から6分ほどの勧修寺(かじゅうじ)へ。平安初期、第60代醍醐天皇が生母の菩提を弔うために創建しました。境内には、毎年正月、池に張った氷を宮中に献上し、その厚さで五穀豊穣を占ったという逸話が伝わる「氷室の池」があります。優雅に花弁を垂れる花菖蒲と、水面に浮かぶ涼やかな睡蓮の花とのコラボレーションも見事ですよ。

 続いては、地下鉄東西線「東山」駅徒歩10分の平安神宮。カリスマ作庭家七代目小川治兵衛による庭園のうち、西神苑にある白虎池を訪れましょう。江戸系、伊勢系、肥後系など日本古来の品種約200種2000株の花菖蒲が咲き誇り、見頃の時期には池の上に散策のための「八ッ橋」が架けられ、より間近で楽しめます。この白虎池では、豊臣秀吉がつくらせた三条大橋と五条大橋の橋脚をカットした石が、池を渡る「臥龍橋」として活用されている点にも注目です。白虎池のある西神苑は、毎年6月と9月の年2回無料公開され、今年は6月7日(金)の午前8時30分からとなっています。

 阪急嵐山線「松尾大社」駅から東へ徒歩15分。日本最古の酒造の神をまつる梅宮大社は、梅、椿、躑躅(つつじ)、杜若、紫陽花、紅葉など、四季折々の色彩あふれる花の名所としても有名です。3000坪ある広大な神苑のうち、北神苑の勾玉(まがたま)池と東神苑の咲耶(さくや)池で、花菖蒲が紫や白の奥ゆかしい花を咲かせます。ここは数匹の猫が暮らす「猫神社」としても有名で、まったりと寝そべったり、境内をパトロールしたりする姿に心が和みます。

梅宮大社の花菖蒲梅宮大社(右京区)の花菖蒲。奥に見えるかやぶきの建物は茶室「池中亭」