特筆すべきことは、日頃の動作では左利きである書道家が毛筆にかんしては右手に持つケースが多々あり、その理由として先に挙げた左手書字のデメリットを紹介しています。

 そんな左右の手を巧みにこなせる人はさておき、すべての左利きが書字において左手から右手への移行をスムーズにこなせるわけではありません。

 右手づかいを強要されたがためにチックや吃音、自閉症などの精神的な悪影響が出るケースもあり、そうなればむしろ子どもの将来にとってマイナスです。

 そんな先天的に左利き度の高い子どもだけでなく、不慮の事故や病などで右手の自由を失った人も、左手で書字や書道を行なうことになります。

学校教育における左手書字の歴史
昭和20年代に左利き容認論が存在

 そこで硬筆と毛筆それぞれを指導するにあたり、学校教育において「左手での書字」がどう扱われていたかを知るべく、文部科学省が発行する『小学校学習指導要領』の歴史をひもといてみます。

 すると、驚くなかれ。左利き児童への学習指導にかんする記載は、1951年に発行された『昭和26年(1951)改訂版小学校学習指導要領国語科編(試案)』のみに記載があったのです。

《左ぎきの児童は、むりに右手で書かせない。左ぎきが正常な児童は、左手で書かせてもよい》

 第2次世界大戦後の日本はまだまだ左利きへの風当たりが強かったものの、当時の文部省内では左利き容認論があったとする貴重な史料といえます。引き続きこの方針を改定のたびに読むことができれば、左利きの書字に対する配慮が進んでいたかもしれません。

 残念ながら「昭和26年改訂版(試案)」以後は、一国の教育を左右する学習指導要領に左利きについての項目はないため、教師一人ひとりの自由裁量に委ねられているのが現状です。