――『パリジェンヌはすっぴんがお好き』に登場するルイ・ヴィトンのパリ本社のパリジェンヌ達がとっても魅力的でした。

藤原:おっしゃる通り、本当に「魅力的」な方たちばかりです!念のため申し上げておきますが、「オシャレなフランス人」という、これまで世に出回ってきたキラキラしたイメージからはほど遠いかもしれません。皆さん自分勝手で、気ままな人達です(笑)。歯に衣着せず、時には悪態だってつきます。取っつきにくいのになんだか憎めない、本当に魅力的な人達です。

その魅力はどこから来るのかと言う話ですが、それは一切取り繕わず、無理もせず、自然体で生きているからです。決して自分を押し殺さず、世間よりも、会社よりも、配偶者よりも、ひいては我が子よりも「自分を優先させる」と気持ちよく割り切っているからだと思います。

――「自分より他人を優先してしまう」ことを悩んでいる読者も多いかと思います。アドバイスをいただいてもよいでしょうか。

藤原:私たちは社会人としていろいろな役割や責任を背負って生きています。日々上司に気を遣い、部下に気を配り、仕事やお付き合いも多い中、家族孝行もせねばならず、自分を優先させるのは至難の技です。女性の場合は更に家事、子育て、時には親の介護と目の回るような忙しさの中、気が付いたら自分は後回し、ということが多いのではないでしょうか。

私もそうでしたのでよくわかります。忙しい毎日を過ごす中、充実感を感じることもありましたが、無理が祟って体調を壊すこともありました。余裕がなくて心が干からびたような感覚に陥ることもしばしば。そんな時、漠然と「なにかが違う」、「もっと違う生き方があるはず」と思うのですが、どうしてよいのかわからず、焦燥し切っていました。

その泥沼から抜け出す秘訣を教えてくれたのは、友人で記者をしているパリジェンヌのマリーです。シングル・マザーなのに取材で世界中を駆け回り、息つく暇もないマリーですが、そんな彼女が決して譲らないものがあります。それは、「誰のものでもない、自分だけのゴールデンタイム」です。

彼女のゴールデンタイムとは、毎晩、肌の手入れをする時間です。いつも被っている仮面を剥がし、役割や責任を投げ捨て、ありのままの自分自身と向き合うかけがえのない時間です。寝る時間を割いてでも、家族と接する時間を削ってでも、マリーはこの「ゴールデンタイム」を死守すると言います。

死守する、というと大袈裟に聞こえるかもしれません。けれどもそれは文字通り、いろいろなモノを背負いこみ、疲れ切った現代人にとって、必死に守らなければ確保することができない貴重な時間なのです。

――「ゴールデンタイム」は自分で作り出すものなのですね。

藤原:その通りです。他の誰かが作ってくれると思ったら大間違いです。周りに期待をしていては何も変わりません。自分を優先させることができるのは、自分だけです。「そんな時間はない」と思う方もいるかもしれませんが、まずは騙されたと思ってこの「ゴールデンタイム」を作り出してみてください。最初は数分だけでも大丈夫です。そしてそれを死守してください。

必ずしも肌の手入れではなくても構いません。音楽を聞くもよし、植物の手入れをするもよし、ペットと遊ぶのもよしです。ありのままの自分に戻ることができるモノを探してください。大事なのは、他の誰でもなく、その時間だけは自分を優先させること。誰にも邪魔されないこと。そして決してスマホなど弄らずに、しっかり自分と向き合うことです。

すると不思議なことに、日常生活の荒波に揉まれている時には考えもしなかったこと、見過ごしてしまうこと、無意識に目を瞑っていたことが脳裏に浮かんでくるようになります。驚いてしまうかもしれませんが、次第に「普段は見えない自分」が見えてきます。そしてそんな自分を労わってあげたい、褒めてあげたいというやさしい気持ちになります。「自分なんか」という発想から徐々に解放されるのです。

私はライフ・コーチでもありませんし、自己啓発の専門家でもありません。それでも、パリジェンヌから学んだこの簡単な秘訣は自信を持ってお勧めすることができます。パリジェンヌの強い自己肯定感は生まれ持ったモノではありません。日々の小さな積み重ねから成り立っているモノです。素の自分と向き合ってみてください。ありのままの自分をさらけ出してください。自分ほど愛おしいモノは、この世の中に存在しません。