ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

【日本の常識はパリの非常識】「そんなモノ、脱いでしまいなさいよ。必要ないわよ」Photo: Adobe Stock

フランスには新卒の一斉採用というシステムがありません

 実は、フランスには新卒の一斉採用というシステムがありません。入社後、特に研修があるわけでも、きちんとしたブリーフィングがあるわけでもありません。中途採用はエキスパートとして雇われ、即戦力になることを要求されており、入社翌日、いえ、入社当日から仕事を任されます。

 コーポレートPRとしての私の最初の仕事は、ルイ・ヴィトンに代々伝わる「物作りの精神」について広報すること。ブランド特有の「匠の技」について、世の中の人に広く、深く理解してもらうことでした。

 170年以上の歴史を持つルイ・ヴィトンのルーツとは何か。現代にまで引き継がれるスピリッツとは何か。そこから勉強しなければなりません。物作りの現場であるアトリエにも足を運び、職人技や職人気質について理解しなければ始まりません。あまりに覚えることがたくさんで、目が回りそうでした。怒涛の毎日が始まりました。

一切の決裁権を握るのが意外な人でした

 そんな中、私が一番困ったのは、日常の些細なことです。ルイ・ヴィトンの歴史を綴った本はたくさん出版されているのですが、どこに注文したらよいのか。5代目当主、パトリック・ルイ・ヴィトン氏へのインタビューはどのように取り進めればよいのか。アトリエへの往復交通費は出るのか。どうやって毎月払い戻しを請求するのか。同僚はもちろん聞けば教えてくれ、上司は頼めば私の案件を決裁に回してくれますが、会議や外出で不在のことがしばしばです。皆それぞれに忙しいので、いちいち対応していられないのです。

 次第に、インタビューの内容から文房具の注文まで、一切の決裁権を握るのは広報部長だということが判明しました。正確に言えば、広報部長のアシスタントを務めるパリジェンヌです。

 茶色のおかっぱ頭に銀縁メガネ、頭からつま先まで隙がない彼女は陰の実力者です。広報部長の人事が2年ごとにコロコロ変わってしまうため、長年居座る彼女こそが広報部を切り盛りしているのです。つまり、直接彼女を通すのが一番早いのです。

 広報部のお局様と仲良くなるのが、どうやら快適なオフィス・ライフを過ごすためには不可欠らしい。そう理解した私は、彼女のオフィスに足繁く通うことになりました。