岸辺露伴も「正義の心」を
持つキャラクター

 では、岸辺露伴はどんな人物なのでしょうか。『ジョジョ』第4部の露伴の登場シーンを確認してみましょう。彼は人気漫画家であり、マンガをこよなく愛する“変人”として描かれています。

 露伴は自分が描くマンガにリアリティをもたらすために、蜘蛛を殺して「ペチャリペチャ」となめてみるなど、常軌を逸した行動をとって、周囲を驚かせます。

 露伴のスタンド能力『ヘブンズ・ドアー』は、相手を「本」に変えてしまうというもので、「本」に記載されている内容に変更を加えることで、その人の思考や記憶を自由に操ることができました。マンガに己のすべてを捧げてきた露伴にふさわしいスタンドですが、プライバシーなどの配慮に欠けた、身勝手な能力だともいえます。

「君の『記憶』をもらうッ! ぼくのマンガのネタにするためにねッ!」

「これが『ヘブンズ・ドアー』の能力だよ…… 人の体験を絵や文字で読み、そして逆に記憶に書き込むこともできるんだ…」(岸辺露伴/『ジョジョの奇妙な冒険』34巻、「漫画家のうちへ遊びに行こうその(3)」)

『ジョジョ』第4部の主人公である仗助は露伴と仲が悪く、露伴は「ゆるさん この仗助だけはゆるさん」と怒ったり、仗助は仗助で「やってやる~~~っやってやるぜ!この岸辺(イカレ)露伴め~~~っ」と心の中で罵ったりすることもありました(41巻参照)。

 しかし、変人の露伴は決して悪人なのではありません。敵のスタンド使い・噴上裕也が操る『ハイウェイ・スター』と戦う話では、囚われの身となった絶体絶命の状態で、敵から仗助を身代わりに差し出すように命じられても、「だが断る」というあの名ゼリフを残して、露伴は仗助を助けようとしました。彼には自分の命よりも大切なものがあるのです。

 真実を希求し続ける露伴のマンガ愛と矜持の根底には、揺るぎない「正義の心」がありました。この場面では、ふだんは言い争ってばかりの仗助が露伴について「『まさか』って感じだがグッときたぜ!!」と叫ぶ様子が描かれています。このように物語の中で、仗助が露伴を信頼していく過程に合わせ、読者も露伴の魅力に自然に惹かれていくのです。主人公の心が、ストーリーに大きな影響を及ぼすのは、伝承文学の冒険物語とも共通している要素だといえるでしょう。