大湿地帯で
ラバーにご対面

 道中は長く、途中、民宿に1泊することになった。メキシコ料理に舌鼓を打ち、本場に近いコロナビールをいただいた。朝食は、自分たちでホットケーキを焼くスタイルだった。ダグはミッキーマウスの顔型になるように、大きな丸型のケーキの上部に耳となる二つの小さな丸型を加えたホットケーキを焼き、一緒に宿泊していたお嬢さんたちを喜ばせていた。

 湿地帯は、マンガ喫茶のフラットシートに負けないほど平らで、せせらぎはほんのわずか。葦(あし)が生えまくり、場所によっては大小の島々が点在して木が生い茂っていた。

 ラバーは、そんな孤立した島や水上の植物に多くいるそうで、近づくためにはなんとかしないといけない。けっこう深そうなので、胴長を履いて突撃するのも一手だが、野生のワニが普通にいる。生身の体では致死率が高いため、エアボートを使う。

 エアボートは、船のように水中のスクリューを回して前進するのではなく、船上後方に備え付けられた大きなプロペラで動く平らなボートなので、水深数センチでも水上を元気よく進むことができる。

 湿地帯を見学するために、いちいちエアボートに乗るのは大変、ということで、公園が整備されている。橋でつながった遊歩道を歩きながら湿地の中を観察できる。おかげで、湿地帯の植物の上にいる幼虫と成虫のラバーを濡れずに観ることができた。

 彼らは泳ぎが得意で、植物から植物へとよく泳いでいるそうだ。1匹捕まえて水に落とすと、ジャンプするときに使用する後脚を蹴り出し、カエル泳ぎのようにスイスイと上手に泳ぐ。水辺にいるときに敵に襲われると「すいとんの術」を使い、率先して水中に身を隠す。湿地の環境にとても適応しているのがよくわかった。

 この地域で問題視されているのが蚊だ。蚊の多さによって3段階の危険レベルで警告が発令される。私たちが訪れたときは最大だった。この辺りで野宿しようものなら、蚊の大群に襲われ、逃れようと水中にダイブしようものならワニが待ち受けている。どこにも逃げ場がなく、悲惨な思いをするそうな。

 私たちは静かな湖畔の森の影の隣に立てられたロッジに泊まることにした。