湿地帯に暮らすラバーの
交尾場所を探る

 しかし、ラバーのメスにとっては地面が必要となる時がある。メスは水中では産卵できず、必ず地中に産卵するため、陸に戻ってこなければならないのだ。しかも、草に覆われていない、土がむき出しになっているところがお気に入りの産卵場所となる。

 エバーグレーズの地形は非常に平坦で、わずか5センチの高低差で、乾燥した土壌と浸水した土壌とがくっきりと分かれる。このわずかな高低差は、「島」を生み出し、この島が重要な意味を持つ。

書影『バッタを倒すぜ アフリカで』(光文社)『バッタを倒すぜ アフリカで』(光文社新書)
前野 ウルド 浩太郎 著

 オスが、湿地帯でメスを探し出すのは大変だ。やみくもに探すより、メスが必ずやってくるところで待っていたほうが、出会いの可能性が高まるだろう。ダグによれば、湿地帯は場所によっては島の数が少なく、そのような場所では、オスは希少な島に大量に集まり、そこに産卵のためにやってくるメスと交尾している可能性があるとのこと。

 多くの動物は、交尾相手と出会う手段として、特定の待ち合わせ場所を使うことが知られている。その中の一つが「ヒルトッピング(=高い場所に集まること)」だ。チョウ、ハチ、ハエ、甲虫などで知られ、山のてっぺんや木の上などで雌雄が出会う。しかし、このような行動は、約2万種以上に及ぶバッタ目では報告されたことがない。

 ラバーは湿地帯に浮かぶ小さな島を雌雄の出会い場として使っている――これがダグの仮説だ。サバクトビバッタのオスが集団を形成し、そこにメスがやってくる現象に非常に似ている。ぜひとも実戦形式でフィールドワークを行いたい。こちらを「ヒルトッピング仮説」と名付け、検証することにした。