主要自動車メーカーの全てで品質・認証の不正問題が起きている。各社の問題発生に共通するのは、技術に対する過信や審査に対する慣れなど心理の影響だ。現場の技術者は皆、審査の重要性を軽視したのだろう。そのため、経営者も「認証試験は現場の判断に任せて良い」といった経営判断が続いたとみられる。生産の現場から経営トップ層まで、現状の生産管理、認証の体制に不備はないという一種のバイアスが強まったと考えられる。また、人手不足で認証体制の強化に影響があったかもしれない。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
トヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ…
自動車「認証不正」が経済の下振れリスクに
6月上旬、5つの自動車・二輪車メーカーで「型式指定」を巡る不正が発覚した。いわゆる認証不正問題だ。6月3日、トヨタ自動車は、2014年以降生産した7車種で国の基準と異なる方法で試験を実施したと公表した。マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキでも不正が明らかになった。
世界の自動車業界をリードする日本企業で、なぜ、このような問題が発生するのだろか。背景の一つに、自社の製造技術に対する“過信”があるのだろう。技術に自信があるため、どうしても試験実施方法などの軽視が起きる、といった専門家の声は多い。現場の自信が悪い方向に作用してしまったということだ。そのため、経営トップがいくら法令順守=コンプライアンスと叫んでも、なかなかこの問題を根絶することが難しい。
有力自動車メーカーの認証不正問題は、明らかに日本経済にマイナスだ。生産の中止などで裾野の広い自動車産業の機能が低下することは避けられない。それによって、わが国の経済成長率の下振れリスクが高まる。コロナ禍が明けてからも個人消費がまだまだ弱い一方、自動車の生産や輸出が景気の腰折れを防いできた。しかし、認証不正問題で景気を下支えする力は弱まるだろう。
また、品質不正をきっかけに、各自動車メーカーの信頼性が低下することも懸念される。それは、国内の自動車関連企業の収益減少につながる。電動車の開発や全固体電池の実用化に必要な投資資金が計画を下回り、成長戦略が遅れる可能性もある。認証不正問題は、わが国経済にとって大きな火種になりかねない。