自動車メーカーの認証不正が
日本経済に与える大きな負のインパクト

 自動車の認証不正問題は、日本経済の下振れリスクを高めている。1~3月期の国内総生産(GDP)は実質ベースで前期比0.5%(年率で2.0%)減少した(1次速報)。実質賃金の減少に加え、ダイハツの認証不正による販売減少から個人消費が減少したのだ。自動車関連の設備投資が減少した面もある。

写真:テスラPhoto:VCG/gettyimages

 それでも、国内経済は何とか踏みとどまった。北米向けの自動車輸出の増加は景気を支えた。省人化や半導体分野の設備投資、インバウンド需要も景気を下支えした。

 4~6月期、自動車の生産回復など前期からの反発で、成長率は上向くとの見方は増えていた。しかし、新たな認証不正の大規模発覚が、そうした展開に完全に水を差している。今後、各社の生産停止などが拡大することになると、経済成長率の下振れ懸念は高まるだろう。

 自動車産業の競争力が低下する懸念もある。トヨタの営業利益率は米テスラや独フォルクスワーゲンを上回っており、資金を電気自動車(EV)などの生産体制強化に再配分してきた。可能な限り早いタイミングでエンジン車、ハイブリッド車(HV)、EV、FCV(燃料電池車)、水素エンジン車など“全方位型”のプロダクト・ポートフォリオを拡充することで国際規制に対応し、より多くの需要を創出する戦略だ。

 しかし、認証不正問題のせいでEV開発などが遅れる可能性がある。欧米市場で日本車の評価が揺らぎ、需要が現地メーカーに向かうことも考えられる。11月の米大統領選挙後に、次期政権が日本の自動車産業を批判する、輸入車の関税引き上げを示唆するなど、逆風が強まる展開もあるだろう。

 現在、アジア新興国市場では、中国や現地EVメーカーの投資が加速している。日本勢にとって電動車への生産強化がいっそう必要なタイミングで、認証不正問題が起きた。そのため、アジア新興国地域の自動車需要が、他国企業に流れることもあるだろう。

 そうした展開が現実味を帯びると、自動車関連の素材、汎用型の機械など日本経済全体で研究開発や設備投資の勢いは鈍化する。認証不正問題が、当面の景気、経済の実力である潜在成長率の回復を阻害する要因になることが、大いに懸念される。