小浜・京都ルート着工は
現状ルールでは困難

 2016年の試算では、小浜・京都ルートは総費用8000億円に対して総便益が8600億円、B/Cは1.1とされており、ギリギリだった。近年の資材・人件費高騰で費用が膨らむのは間違いないので、B/Cが1を割る小浜・京都ルートの着工は困難だ。

 対する米原ルートは距離が短いため、事業費は4分の1、工期は3分の2で済む。所要時間や運賃など便益は不利だが、B/Cは2.2と算出されていた。米原ルートの事業費も膨らむはずだが、仮に費用が倍になっても1以上を確保できる計算だ。着工条件を満たすのは米原ルートしかない、というのが米原派の主張だ。

 そもそも2000年代前半まで、森喜朗元首相をはじめとする北陸政財界、橋下徹大阪府知事(当時)、関西広域連合、そしてJR西日本も、早期着工・早期開業を重視して米原ルートを本命視していた。だが、過密ダイヤの東海道新幹線に乗り入れる技術的ハードルが高く、米原乗り換えが長期化するおそれがあった。

 こうした中、国交省は2012年、北陸新幹線に在来線を走行可能なフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を導入し、敦賀開業時から京都・大阪方面への直通運転を目指す方針を示した。米原ルートは開通しても乗り換えが残る、小浜ルートはフリーゲージトレインで利便性を確保しつつ事業化できる、そんな牽制の意味合いもあったのだろう。いずれにせよ、2016年に営業主体となるJR西日本が小浜・京都ルートを提示したことで事実上、議論は決着した。

 では、それを再度ひっくり返して米原ルートに戻すことは可能なのか。関西に強い影響力を持つ野党第2党の動きは無視できないが、小浜・京都派は、ルート選定は終わった話であり、議論すら起きていないと主張している。沿線自治体では6月20日、石川県議会がルート再考を国に求める決議案を可決したが、石川県の馳浩知事は小浜・京都ルートを支持しており、富山県、福井県、滋賀県、京都府も同様だ。

 与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームは6月18日、現行の小浜・京都ルートを維持し、米原ルートへの変更には応じないことを確認し、2025年度末までの着工を目指す方針を決定した。

 最大のネックは「投資効果」のクリアだが、「B/Cは形骸化している」「B/Cの計算方法を見直すべき」「便益をより広い範囲でとらえた方が良い」との声があり、ルールそのものを変えてしまえば何とでもなる、というのが本音だろう。