“リアルなグローバル”と“物理的な壁”のなかで…

 東さんはベトナム(ホーチミン)での“海外リモートワーク”を2年以上続けているが、日本の国内ではなく、海外でのリモートワークにはメリットよりもデメリットのほうが多いのではないか? まずは、メリットの有無を尋ねた。

 メリットがあるとすれば、それは、「ワークライフブレンド」の実現ですね。「ワークライフバランス」という言葉はよく知られていますが、家庭生活と仕事は「バランスをとる」という関係のものではないなぁ、と私は思います。約10年前、オーストラリア移住時には、家族かキャリアかのどちらかを選ぶ苦渋の決断をしましたが、2度目となる今回は、ORではなくAND、(家族との生活も自身のキャリアも)両方を叶えたいと思いました。

 新人時代、リンクアンドモチベーションで教えていただき、いまでも大切にしている言葉に「働学遊の融合」というものがあります――学び直しで得た知識や情報が仕事に活かされることはもちろん、育児や家事、友人たちとの時間が新たな気づきや仕事へのアイデアになる。ワークとライフは二項対立ではなく、働くこと学ぶこと遊ぶことすべてを融合させながら好循環させていくイメージです。

 以前は、転勤に伴うキャリアチェンジや生活の変化に戸惑い・苛立ちを感じたことも多々ありましたが、いまでは、海外からの就労という働き方も自分自身の実現したいビジョンや目標を叶えるうえでの一つの手段・選択というとらえ方をするようになりました。

 東さんは、毎日、“リアルなグローバル”を肌で感じながら生活しているとほほ笑む。「ワークライフブレンド」のなかで、ベトナムのホーチミンという土地柄をどうとらえているのだろう。

 ベトナムのホーチミンは、成長発展著しく、街は活気にあふれていますね。年間の訪越観光客の数もコロナ前を超えたそうです。四季がある日本とは異なり、年中半袖で過ごす南国生活にもだいぶ慣れました。ベトナムに拠点を移したことで、アジアをはじめ、諸外国との距離がぐっと近くなり、2年ほどで、タイ、インドネシア、マレーシア、カンボジア、ラオス、スリランカなどの国々を訪れ、一口にアジアといってもそれぞれの国で異なる文化や価値観、歴史に触れることでダイバーシティに対する理解、経験を深めているところです。仕事上でベトナムの方々とのやりとりはさほど多くはありませんが、ローカルの方をはじめ、さまざまな国籍の友人たちとの会話は、新たな視点での気づきや学びにあふれており、知的好奇心をくすぐられることばかりです。

……では、“海外リモートワーク”のデメリットは何か? たとえば、日本在住のメンバーとのコミュニケーションはどうしているのか? 1日の仕事の始まりの様子から尋ねた。

 毎朝、Slackで社内のメンバーと挨拶することから1日の仕事が始まります。7時過ぎ(日本時間の9時過ぎ)に息子を送迎し、7時半頃にSlackに「おはようございます」から始まるコメントを書いて、8時頃に始業。社内ミーティングはもちろんのこと、広報としての取材対応もオンラインで行います。時差が2時間ということもあり、オンラインでのコミュニケーションは国内にいるときとほとんど変わりません。ですから、“海外リモートワーク”のデメリットは、やはり、いざというときの物理的な壁ですね。クライアントとの対面がどうしても必要なときには帰国しますが、思い立ってすぐに帰れるという距離ではありませんから。

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東加菜さん執筆コンテンツ(「HRオンライン」2023年8月10日配信)
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経営層や人事担当の方は「一部の社員だけを特別扱いできない」と思うかもしれませんが、社員一人ひとりのライフキャリアに対して真摯に向き合い、寄り添う姿勢こそが、「もしも、自分に何かあった際に会社が親身に寄り添ってくれるはず」といった、他社員の安心感やエンゲージメント向上にもつながるはずです。(本文より)