問題は相手ではなく「従業員の認知能力」

 ここで明らかなのは、そのトラブルの多い従業員は、認知能力に問題があるため、相手の言うことをちゃんと理解できないのではないか、ということである。相手の言い分がよくわからないため、クレーマーだと感じてしまう。相手が正当な要求をしたとしても、その理屈を理解できないため、無理難題を吹っかけられたとか、いちゃもんをつけられたと感じてしまう。

 実は、こうした認知能力の問題によるトラブルは、意外に多くの職場で起こっているように思われる。

 認知能力は、いきなり向上するものではないので、そのようなケースで、まず大事なのは、他者の視点に立って考える心の習慣を促すことである(視点取得)。相手が何を言いたいのかに全力で想像力を働かせるのである。

 先ほどの従業員がコミュニケーションの相手となる場合もあるので、上述のような要因も念頭に置いておく必要がある。

 コミュニケーション絡みのトラブルでは、
「なんで反発するんだ。何か不満でもあるんだろうか?」
「どうしてあんな意地悪を言うんだろう。怒らせるようなことを言ったかなあ?」
「なんで感情的になるんだろう。嫌われてるのかな?」
などと、いぶかってしまうこともあるはずだ。でも、特に思い浮かぶようなことがない場合は、単にこちらの言うことが理解できないだけ、こちらの意図がきちんと伝わっていないだけであって、不満があるわけでも意地悪を言っているわけでもなく、嫌われているわけでもなかったりする。

 読解力が不足しているため、こちらの言うことがよくわからず、おかしな反応をしてしまうのだ。こちらは正当な説明や要求をしているのに、こちらの言い分をうまく理解できないため、訳が分からないことを言ってくると思い、いちゃもんを付けられているような気になり、感情的になってしまう。決してクレームをつけているわけではないのに、相手はクレームをつけられたと思い込んでしまうのである。