相手の言うことが理解できないと、クレーマーに思えてしまう

 他の従業員から見れば「機嫌がいいなじみの客」が、その部下からは「クレーマー」に見えるのはなぜなのか。このケースでも、客とのトラブルの具体的なやりとりを知れば、従業員の認知能力に問題があることが分かる。

 トラブルの内容について、その管理職が揉めた部下に確認したところ、

「本人は、こんなことまで要求してくるのだ、そんなことはできないといくら説明しても分かってもらえず、訳の分からないことをまくし立てる、あまりに非常識だ、クレーマーだと、鼻息荒く向こうの理不尽さをアピールするんです。しかし、同僚たちも言うように、私もそれは決して無理な要求などではないし、お客の要求に合わせて容易に対応できそうだし、なぜそこまでいきり立って拒むのか理解に苦しんでしまいました」

という。特に理不尽な要求なのではなく、十分対応可能なことなのに、なぜかその従業員が頑なに拒むため、お客も感情的になり、トラブルになってしまったようなのだ。

 その従業員の場合、お客と揉めるだけでなく、取引先と揉めることもあり、本当に困っているという。

「お客とのトラブルも困ったものですけど、取引先とも揉めることがあるんです。先日も、取引先の担当者から怒りの電話があり、いったいどういう社員教育をしてるのかと責められ、ひたすら恐縮して謝るしかありませんでした」

 そのトラブルも、お客の場合と同じく、先方の言い分をしっかり理解できていないところに発しているようだった。

「彼に問い質すと、『取引先の担当者が訳の分からないことを言うから、おっしゃってることが分からないのでもう少しわかるように説明してくださいと丁重に対応していたのに、向こうが勝手に怒り出したので困った』って言うんです。でも、周囲で聞いていた同僚によれば、先方の言うことはよく分かったし、彼の理解が悪いんだと言うんですね。で、私も、先方の言い分を聞くと、決して理不尽なことではないんです」