本と虫眼鏡写真はイメージです Photo:PIXTA

情報があふれ、インプット過多な現代において、若さと知性を保った60歳になるにはどうしたらいいのか。齋藤孝氏はアウトプットの意識が鍵だという。同氏が60歳からのアウトプット術を指南する。※本稿は、齋藤孝著『最強の60歳指南書』(祥伝社新書)を一部抜粋・編集したものです。

語彙力が豊かな人は
感覚のアウトプットが上手

 言葉にしにくい概念を万人向けに構成して説明する行為が、論理的なアウトプットです。これは「感覚を知性に落とし込む」作業ともいえます。

 映画の試写会後に、感想を聞かれた若い人が「トリハダでした!」と答えたとします。その横にいた60代の人が、「予測不可能なストーリー展開に飽きませんでした」などと言えたなら、若者よりうまくアウトプットできたということになるでしょう。

 意識は個人の頭の中だけにあるものなので、第三者を得心させるためには、誰もが理解できる表現に置き換えて説明する必要があります。

 一般に子ども向けの絵本は、細かな説明をあえて省いて直感的に描かれているものが多いので、小さな子から「なんであの子はあのとき泣いてたの?」と聞かれたとき、子どもでも理解できそうな表現を選びながら説明しなければなりません。

 的確な言葉を選ぶには語彙力が必要です。語彙を10持っている人と100持っている人とでは選択肢の幅が違いますから、表現のバリエーションにも比較にならないくらい差が出ます。

 つまるところ、どれだけの語彙を頭の中にストックできていて、それをどれだけ短時間で拾い出し、的確な間で吐き出せるかです。

 語彙力が豊かな人は感覚をアウトプットすることに長けていますし、さらに新たな語彙を日頃から追加し続けていますので、知の燃料は常に満タンです。

 逆に、中高年になっても「やばい」や「すごい」でしか説明ができないという人は、40代や50代までに語彙を補充する機会を放棄してきたのかもしれません。

 テレビの食レポも、「ヤバっ!」「超ウマっ!」だけでは視聴者に伝わりません。味が何に似ているのか、食感がサクサクしているのか、ふわふわしているのか、お餅のように粘りがあるのか、弾力が強いのか――、そのシズル感をうまく伝えるのがレポーターに与えられた役割です。

 美味しさという直感を誰もが理解できるように、的確な言語で毎回表現できる60歳を目指していただきたいと思います。

本の内容を的確に伝えるには
自分の体験を重ねて話す

 学生と話していると、「本を読むのは好きなのですが、内容を人に伝えるのが苦手で」という声を聞くことがあります。

 そんな学生に私がよく言うのが、自分の体験を重ねながら話すという方法です。引用した文章に自分のエピソードを乗せてみるのです。