たとえば、『論語』の内容を説明する場合、ある人が「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」を選んで説明を試みたとします。

 言葉そのものは、「立派な人は誰かと仲良くしても同じにはならない。凡人はなんでもかんでも人と同じようにしようと考えてしまい、違いを認め合いながら仲良くすることもできない」というような意味なのですが、それだけを伝えても印象に残らない場合もあります。

 そこで、「自分の高校時代、まさにそういうタイプの人がいてね」と、過去の実体験からできるだけ具体的なエピソードに言及し、「今では成功して会社経営も順調で、やっぱり成功する人というのは若いときから……」といった流れで伝えれば、孔子の言葉の意味が具体性を伴って相手の心に伝わります。

 このように、エピソードを乗せることは、自身の経験を「完結した1つの話」として上手に説明できたことになり、自身もアウトプットによる達成感を得ることができます。聞く側を喜ばせることで、話した自分の脳も喜ばせるわけです。

 小説でも物語の主人公が過去の自分や身近な人に似ていると、内容をより現実的に理解できますし、人にも説明しやすくなります。

 自分との共通点が多い本は心が動きやすく、反対に自分が本に近づくことで理解度も深まり、説明も上手になるはずです。

 再雇用の面接などで聞かれる座右の銘も同じです。「習慣は第二の天性なり」を選ぶのであれば、「天才ではない自分にも、地道な努力を継続する愚直さだけはありました。実際、前の職場では……」と具体的なエピソードとして話すことができれば、面接官も前のめりになって耳を傾けてくれるかもしれません。

記憶を定着させるためには
アウトプットを意識して読む

 本や資料などを読んで記憶の定着率を高めたい場合は、「誰かに説明することを前提にして読む」という方法があります。アウトプットを意識しながら読むということです。

 小説のように気持ちを乗せやすい文章と違い、ビジネス書や新聞の記事などは、集中力を欠いた状態で読むと思考が流れてしまいます。読み終わったらほとんど覚えていない、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 ところが、誰かに説明することが前提であれば、内容をできるだけ正確に記憶しなければならないため、そもそも読むときの気合が変わります。