不都合な真実を
どう乗り越えるか

 現在のモノ消費主導の経済下では、「モノ減らし・モノ無くし」や「使い続けのモノづくり」を進めることは、モノが売れなくなる、つまり業績悪化を意味します。それはメーカーをはじめ、サプライチェーンに携わるすべての企業にとって不都合な真実であり、モノづくりとモノ流通のあり方を根底から変えてしまいます。怖くなって目を伏せるか、思考停止に陥りかねません。線形経済から資源循環経済へという、極めて難易度の高いパラダイムシフトをどのように成し遂げていくべきでしょうか。

 現在の線形経済においては「モノづくり・モノ売り」が基本であり、それを体現するのがマスプロダクション、マスセールス、マスマーケティングです。またプロモーションも、マスメディアを使ったマスコミュニケーション(宣伝広告)、マスエデュケーション、そしてマストランスポーテーション(大量輸送)を通じて行われます。さらに、プライシングでも、ボリュームディスカウントが一般的です。

 この「マス」消費を維持するためには、消費者に「買い替え、買い増し/足し、買い揃え」を連続的に行わせる必要があります。そこでの基本戦略は、2つの陳腐化です。

 1つ目は「技術的陳腐化」です。新たな技術や機能を組み込んだ新製品を次々と登場させることによって、旧製品を時代遅れのものへと追い込むことを指します。買い替えを促進するための計画的な陳腐化だといえるでしょう。

 ちなみに私が、とある勉強会でこの技術的陳腐化の話をした時、某大企業で活躍している開発担当者はこうつぶやきました。「定年間際になってようやく気がつきました。私がこの30年間にやってきたことは、自分が開発した製品を常に否定して、陳腐化させ続けることだったのですね」と肩を落としたのです。その方は、いまは気を取り直して、資源循環経済向けの製品使用延伸サービスに熱心に取り組んでいらっしゃいます。

 話を戻しましょう。陳腐化戦略の2つ目は、「マーケティング的陳腐化」です。まさにファッションが典型のように、「流行」を意識的につくり出し、「買い替え、買い増し/足し、買い揃え」を勧めるセールスプロモーションによって新製品の価値を喧伝し、従来品の相対的な価値低下を消費者に吹き込む。そうやって、消費促進をするのです。

 こうした買い替えありきの経済にどっぷり浸かってしまうと、バージン材・新型・新品の新製品開発が金科玉条のごとく尊ばれ、むしろそれこそがイノベーションであると盲信してしまう。もちろん、先に挙げたモノ減らし・モノ無くしのための新製品開発であれば新たな価値を創出しますが、技術や機能の「差分の改善改良」による漸進的な新製品開発を続けているだけでは、資源枯渇をますます加速させてしまいます。インプルーブメントではありますが、残念ながらイノベーションとは言いがたい。だからこそ、使い続けに資するモノづくりへと一刻も早くシフトしなければならないのです。

 その点で、リユース以上に「ユースの延伸」の重要性を説いていらっしゃいますね。

 何度も申し上げているように、資源循環経済の核心は「使い続け」です。ですから本来は、モノの寿命を長くする「ユースの延伸」をまず考えるべきです。にもかかわらず、なぜかそこをすっ飛ばして「リユース」ばかりが語られてしまう。どうしてかといえば、やはり3Rそのものがゴミ対策に起因するからでしょうね。資源生産性を考えるなら、明らかに手持ちの既存製品を使い続けるほうがよいのは明らかです。たとえば3年で買い替えていたPCを6年使えるようにしたなら、資源は半分で済みます。

 ユースの延伸を可能にするモノづくりとは、具体的にどうすればよいのでしょう。

 まず挙げられるのは、製品開発段階における「サステナブル・デザイン」です。これは単に見た目の話だけではなく性能面も含まれており、長期間にわたって魅力を保ち続ける製品となるために必要な開発コンセプトです。陳腐化しにくい、あるいは使い続けることで味が出てくるデザインと機能を目指します。これまでとは異なる概念や手法によって既成概念を壊し、新しい価値を生み出すことが求められます。

 その際、製品を機能的に陳腐化させないための「レトロフィット」が重要です。モノの物理的な破損部分や劣化部分を修理するだけなく、機能追加や精度向上などによって新品同様の価値をもたらすことを指します。主としてデジタルアプリでそれは可能ですが、最近では機器本体の中にチップの入れ替え(リプレイス)ができる第2スロットを設けたレトロフィット対応構造も出始めています。

 このようにユースの延伸のためには、資源生産性の思想を織り込んだ新製品開発と、その陳腐化を防ぐメンテナンスやリペアなどのサービス群の提供、この両方が極めて重要なのです。

企業が取り組み始めた
モノの再生ビジネス

 モノの再生という観点では、パナソニックが自社製品(サブスクリプションサービスの契約終了後の商品や初期不良品、店頭展示の戻り品など)を対象にした新事業「Panasonic Factory Refresh」を2023年12月に開始しましたし、ヤマダ電機も「YAMADA アウトレット・リユース」という中古家電事業の強化を進めています。また、メンテナンスやリペアの領域では、メーカーを問わず国内外の計測機器を対象に24時間365日対応の修理サービスを行う京西テクノスが独自の存在感を示し、躍進しています。
 こうしたいわゆる「R群」のサービス強化については、いかがお考えでしょう。

 いったんつくったモノは、できるだけ「使い続け・使い治し・使い切り」が求められます。自動車や生産設備、冷蔵庫や洗濯機に至るまですべてのモノを2倍長く使えることができれば、理論上は資源消費が半減するはずです。

「使い続け」では、「リユース」というより、むしろ「ユースの延伸と多様化」が中心となります。そのパターンはいくつかあります。

 第1が、「そのまんま」的継続使用です。手持ちの既存品をみずから使い続けることです。ただし、この時にはリペア、すなわち修理・修繕や仕立て直しが欠かせません。たとえば、私が今日着ているワイシャツ。元はオーダーメイドですが、襟と袖がすり切れたので、それらを付け替えました。買い替えで新調すれば3万円ですが、仕立て直しなので3000円で済みました。

 第2が、「メルカリ」的継続使用です。使っているうちに飽きてしまったり、性能的にまだ使えるけどもう少しスペックを高いモノに替えたいといった時に、中古業者やメルカリなどのフリマサービスを活用して他人・他社に使ってもらう方法です。

 第3が、「別用途」による継続使用です。これは、モノのパフォーマンスがへたってきたら別用途で使用して、セカンドライフ、サードライフで頑張ってもらうことです。たとえば、欧州ではEVの車載用電池(EVバッテリー)はすべて再利用されるようになりました。以前は車載用電池がある程度消耗すると廃棄されていましたが、いまは電動工具や家庭用の予備電池など、自動車ほどの電力を必要としない領域で再利用することが法律で義務付けられました。欧州では、最後まで「使い倒す・使い切る」ことが大原則だからです。

 第4が「入れ替え・取り替え」による継続使用です。ある部分がへたったら、それを入れ替えたり、取り替えたりして使い続ければよろしい。部品のリプレイス(入れ替え・取り替え)や消費品のリフィル(再充填)です。新品への入れ替えもあれば、分解・解体された他の完成品の部品に取り替える場合もあるでしょう。要は、完成品寿命と部品寿命の差を活用したやり方です。

 第5が、「ドナー」的な継続使用です。全体がへたったとしても、一部分の機能や性能が問題なければ、それを同一用途で他者に活用してもらう。言わば臓器提供と同様です。

 第6が、「フランケンシュタイン」的な継続使用です。分解・解体をし、その中で使える良品の部品を集めて、元々の用途の完成品を再構成することです。フランケンシュタイン博士が死人の臓器を集めて怪物のような人造人間をつくった話に似ているので、私はこう呼んでいます。「リマニュファクチャリング」と言う時は、これを指す場合が多いようです。