なお、補足が3点ほどあります。

 1点目は、ユースを延伸するためには、アンチエイジング技術(修理・修繕・強化・更新などの使い治し技術)とメンテナンスサービスが必須であることです。これらによって一つの製品の使い続けを行う「使い治し」(修理・修繕・強化)が基本となります。自社が持つ技術と営業体制を有効活用することから、ある意味で、企業の腕の見せどころといえるでしょう。

 2点目は、アンチエイジングをしやすいデザインをあらかじめ設計段階で練り込んでおくことです。B2C商品では、陳腐化しにくく飽きないデザインが欠かせません。

 3点目は、売れなくて長期在庫した「新古品」や、荷崩れ品などのいわゆる「B級品」、あるいは何らかの理由で日の目を見ない「訳あり品」などを「再整備」(リファービッシュ)して「使い始め」することも重要です。また、展示品などのように、ユーザーの手に渡ってはいないが十分使える品を再整備することで、新品同様に使えるようにする方法も注目に値します。

 これらはすべてメーカーによる取り組みであり、ユーザーが使用した中古品を修理・修繕して活用することとは異なる点に注意していただきたい。そのうえで私が申し上げたいのは、3Rの「リユース」は大切ながらも、その根底には「使い続け」(=ユースの延伸と多様化)があり、それこそが資源循環経済の本質だということです。

バトンゾーンで
何を仕込むか

 一つの完成品を使い続けるだけでなく、部品レベルに分解してまで徹底的にモノを使い倒す。その積み重ねが、モノ減らし・モノ無くしにつながっていく。資源循環経済とはモノづくりのコペルニクス的転回であり、そのためには自社のビジネスモデルの変革が不可欠ということなのですね。

 その通りです。まさに資源循環経済はビジネスモデル大乱世を意味しており、イノベーション大競争時代へと突入していると言っても過言ではないでしょう。ここまでお話ししてきたような多様な観点からの工夫を通じて、「大量生産・大量消費・大量廃棄」をベースとした線形経済から脱して、「極小生産・適小消費・無廃棄」を基本とする資源循環経済へと転換する。このパラダイムシフトなくして、資源枯渇と環境汚染という世界的かつ人類的な難問を乗り越える術はないのです。

 カーボンニュートラルと同様に、資源循環経済の達成目標とされているのは2050年ですが、まさにいまはその移行期、私の言葉を用いれば「バトンゾーン」だといえます。近年、エネルギー業界などで使われるようになった「トランジション」は、このバトンゾーンに当たります。それゆえ、過渡期的措置と将来的措置の区分けを明確にすべきでしょう(図表2「線形経済と資源循環経済をつなぐバトンゾーン」を参照)。

 そこでまずおすすめしたいのが、自社の業種や業界を踏まえた「定性的な区分」です。時間軸に沿って、短期・中期・長期の3つのフェーズに分けて移行段階を考える。もちろん、エネルギーなどの重厚長大な業種と、情報を主体としたIT産業では、変革サイクルは同じ時間軸というわけにはいかないでしょう。業種や業界の特性を考慮する必要があるから、あえて定性的な区分と言っています。
「短期」では、現行の既存事業ポートフォリオで徹底的に稼ぐ期間をどこまで延伸できるかを考えます。

「長期」では、次世代の新規事業ポートフォリオで稼ぐモデルを示す。つまり資源循環経済におけるビジネスモデルそのものを提示しなければなりません。

 そのうえで最も重要となるのは、長期と短期をつなぐ「中期」、すなわちバトンゾーンです。これをどうデザインするかが要諦となります。つまり、既存の事業ポートフォリオから新規の事業ポートフォリオへとどのように移行させていくか、ここを適切なバトンゾーンとしてデザインできなければなりません。

 ちなみに、これら短期・中期・長期の組み立て方のコツを端的に言うならば「短期は計画し、長期は構想し、中期は企画する」。そうとらえるとわかりやすいでしょう。

 近年、統合報告書やアニュアルリポートなどで中長期の経営戦略を掲げる企業は増えていますが、このバトンゾーンを明確に定義し、何をしていくかを説明できている企業はほとんどありません。サステナビリティという言葉だけが踊り、暫定的施策をまるで持続可能なビジネスへの解決策であるかのように謳っているところも少なくない。既存の事業にカラフルなSDGsのラベルを張り付けて取り繕う企業も多い。こうした「なんちゃってGX」や「グリーンウォッシュ」が跋扈(ばっこ)することに、私は危機感を抱いています。「見せ球」や「誘い球」にはもう見飽きました。企業は「決め球」を用意すべきなのです。

 それゆえにポートフォリオ変革を時間軸で整理し、短期と長期をつなぐ中期のバトンゾーンで何をすべきかを明確に示す必要がある。その解像度がどれだけ高いかで、経営者の力量がわかります。もし自分にその力がないとすれば、一刻も早く、資源循環経済というビジネスモデル大乱世に適応できる後継者に経営を託すべきでしょう。

 日本はイノベーション後進国だとよくいわれますが、イノベーションに悩む企業の多くは、過当競争のレッドオーシャンで頑張り続けようとする。つまり、イノベーションのターゲットを間違えているのではないでしょうか。その点で、資源循環経済という領域は、まだ誰も経験したことがないブルーオーシャンです。イノベーションの宝庫であり、企業にとって大きなビジネスチャンスでもある。一刻も早く準備し、挑戦しなければなりません。いまこそ、資源循環経済という大海へと漕ぎ出すべきなのです。ルフィだったら、仲間とともに「ワンピース」を目指すはずですから。

【後編】に続く(後編は2024年10月末頃に公開予定)

 

◉聞き手|宮田和美 ◉構成・まとめ|奥田由意、宮田和美
◉撮影|朝倉祐三子 ◉イラスト|ネモト円筆